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2008年10月15日 (水)

産科無間地獄 ~ 出口のない暗闇の中で

日本市場の株価はようやく上向きになってきたようですが、世界各国ではまだまだ先行き明るいとはとても言えない状況のようです。
しかしつい先日までは失われた十年と色々言われてきましたが、なんだかんだ言いつつ苦労は後でタメになったと言うことなんですかね。

それはともかく、福島・大野事件で無罪が確定した加藤先生が業務を再開されたそうです(パチパチパチ)。

無罪の産科医が勤務再開 民間病院で常勤に

 福島県立大野病院で2004年、帝王切開で出産した女性=当時(29)=が死亡したことをめぐり、業務上過失致死罪などに問われ、無罪が確定した産婦人科医加藤克彦さん(41)が14日、民間の会津中央病院(同県会津若松市)で勤務を再開した。

 同病院によると、加藤さんは産婦人科の常勤医として、外来診察や手術などを担当する。武市和之病院長は「特別扱いはしない。地域のために、1人でも多くの元気な赤ちゃんを取り上げてほしい」としている。

 加藤さんは県職員として県立大野病院に勤務していたが、06年に逮捕、起訴された後、休職扱いになっていた。無罪が確定した今年9月、県が復職の辞令を出したが、民間病院で働くことを決めた。

 加藤さんは弁護団を通じて「地域医療のため頑張っていく」とコメントしており、主任弁護人を務めた平岩敬一弁護士は「無事、医師として仕事ができるようになってよかった」と話している。

「特別扱いはしない」なんて言うと何やら格好よさげにも聞こえるのですが、既に産科医不足は特別扱いなんてしていられるような状況ではないのです。
「1人でも多くの元気な赤ちゃんを取り上げてほしい」というのは文字通りに取るべき本音ではあるでしょうね。

全国的に産科崩壊が進んでいますが、新規入局者増加が夢物語である以上は既存産科医の掘り起こしが次のターゲットになってくるのは当然の流れでしょう。
ひと頃は「女性の身体を扱うのだから先生も女性がいい」なんて話で女性産科医がもてはやされた時代がありましたが、実際のところ産科の現場の状況は女性には過酷すぎたというのが実態のようです。
いや、女性医師の先生の中にも幾らでも頑張っておられる優秀な先生方はいらっしゃる訳ですが、一番の問題はそうした先生方が自ら女性であるということを放棄しなければならない状況にあるということですよね。
もともと医師という職業は結婚していても子供がいないという女医さんが昔から多かったのですが、こういう現状を見ればそれも当然かという気もしてきます。

女性産科医:妊娠中も当直減らず 4割が育休制度なし

 産婦人科で働く女性医師の3分の1は妊娠・育児中であるにもかかわらず、病院が子育て支援のために当直を減らしたり、院内保育所を設けているケースが半数以下であることが、日本産婦人科医会の実態調査で分かった。法律で義務付けられた育児休暇制度も約4割の分娩(ぶんべん)施設が「ない」と答えており、医会は「女性医師は医師不足にあえぐ産科の貴重な戦力なのに、管理者の意識が低すぎる」と嘆いている。

 産婦人科の女性医師の割合は2割を超え、一般の診療科(約15%)よりも高いが、免許取得後10年で半数が分娩から離れており、職場の育児環境整備が急務になっている。今回、全国853カ所の分娩施設から回答を得た調査では、女性医師の33%が妊娠・育児中で、リスクが高い妊娠を扱う大学病院や日赤病院でも3割を超えていた。

 こうした女性医師に配慮し、当直回数を減らしている施設は、妊娠で46%、育児で41%と、いずれも半数以下。特に国公立病院は、育児中でも6割以上が通常の当直を余儀なくされていた。代わりの医師を手当てする制度がある施設も13%だけだった。

 院内保育所を設けている分娩施設は47%で、日本医師会調査による全病院平均(31%)よりは対応が進んでいる。ただし病児保育や24時間保育があるのは1割程度しかなく、利用者は約4割にとどまっていた。また育児休暇については、38%の施設が育児休業法に反して「ない」と回答しており、実際に3割の女性医師が休暇を取れていなかった。

世に産科崩壊なんて言いますが、ある意味では医療崩壊という現象と同様に「労働者としての医師の権利主張」であるという見方もできるわけです。
権利の主張に応えることの出来る職場には労働者が集まるし、出来ない施設からは逃げ出していく、少なくとも今の医療業界のような売り手市場であれば医師にとっては当たり前の行動にしか過ぎません。
妙な浪漫の世界で生きてるようなところのある男と違って、こういう局面での女ってのは結構シビアなんですよね。

「最近の研修医は5時になったら帰るんだよ」なんてお嘆きの指導医がいらっしゃいますが、本来労働者としては勤務時間が過ぎたら帰るのは当然の権利であって、適正量の仕事を割り振れない指導医の管理能力こそが問われるべきという見方も出来るわけです。
「いや研修医が動いてくれないと回らないし」と言うのであれば、自らが先頭に立って業務量が適切な範囲に収まるよう職場改善に努めるべきでしょうし、そもそも病院の業務量というのは医者が幾ら働くかというところから決まってくるはずなのですよ。
今の時代そうした業務改革、あるいは意識改革が出来ない職場は他によほどのメリットがない限り人が集まることはないでしょうし、長年放置されてきた医療業界の歪みがたまたま先鋭化したのが産科であったというだけの話ではないでしょうか。

各地で医師の待遇を引き上げようと言う動きが出ている今の時代、さんざん医師を使い捨てしてきた公立病院もやっと給料を増やすと言い始めているとか。
しかしよく見れば増やしているのはあくまで手当だけであって、本給の部分には手を付けてないんですね。
どうせ医師なんてあっちこっち転勤するんだから本給さえ低くしておけば退職金も安く済むと思っているのか、手当だけなら人手が足りてくればいつでも減らせると思っているのか、いずれにしても随分と人を舐めた話です。

まあ今の時代の若い医者はそういうところもしっかりしていますから、目先のエサに釣られて道を誤るということもそうそうはないんじゃないですかね。

実際に自治医ばりの僻地勤務が漏れなくついてくる奨学金制度もあちこちの自治体で導入してはみたものの、さっぱり応募がないという話も聞きますし。

騙そう、引っかけようという気持ちばかりが先走っていると、釣れる魚も釣れなくなるということですよ。

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