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2008年10月10日 (金)

大野事件判決は、判例とは言わない

だそうです。

「大野事件判決は、判例とは言わない」―前田座長

 「大野病院事件の判決は、法律家の間では重視されない。一審判決でしかない。地裁の判断でしかない。法律の世界はそこが非常に厳しくて、原則として最高裁(の判決)でなければ判例とは言わない」―。医療事故の調査機関の創設に向けて7か月ぶりに再開された厚生労働省の検討会で、前田雅英座長(首都大学東京法科大学院教授)は、最高裁の判断を重視することを強調した。「反発する医療界をいかに説得するか」という問題に多くの委員が腐心する中、「言葉だけで、だましてはいけない」との厳しい指摘もあった。(新井裕充)

 医療事故の原因究明や再発防止に当たる第三者機関「医療安全調査委員会」(仮称)の創設をめぐっては、11の病院団体で構成する「日本病院団体協議会」も意見を集約するには至っていない。

 「医療界の反発をいかに抑えるか」という課題を抱えたまま、政局の行方が不透明な中で、法案化が暗礁(あんしょう)に乗り上げた格好になっている。

 このため厚労省としては、次の衆院解散・総選挙までに医療界を説得するための材料を用意し、法案化に向けて一気にアクセルを踏みたいところ。反対する学会などのヒアリングを実施して、病院団体の合意を取り付ける「準備」を入念に進めておく必要がある。

 そのような中、厚労省は10月9日、「診療行為に関連した死亡に係る死因究明等の在り方に関する検討会」の第14回会合を開催し、732件のパブリックコメント(国民からの意見)をまとめた23項目の「Q&A」を示した。意見交換では、厚労省案と福島県立大野病院事件判決との関連や、刑事責任を問われる「重大な過失」の意味が議論の中心になった。

 樋口範雄委員(東大大学院教授)は、大野病院事件の判決が一定の基準を示したことを評価し、「福島地裁判決で、こんなことを言っているということを『注』などで出していただくと、標準的な医療行為から著しくかけ離れた場合はこういう場合で、こんなに厳しい要件だから、刑事裁判ではない別の仕組みで医療者が頑張るという本筋が伝わる」と述べた。

 これに対し、前田座長が次のように述べて反対した。
 「大野病院事件の判決は、法律家の間では重視されない。それはやはり、一審判決でしかない。地裁の判断でしかない。法律の世界は、そこが非常に厳しくて、原則として最高裁でなければ判例とは言わない。(大野病院事件は)最高裁まで争って決まったものではなく、一地方裁判所の判断。同じ医療過誤の問題に関しては、最高裁の判断もある。それとの整合性を持たせつつ整理して、医療界の心配を解くことが必要だ」

■「重大な過失」では説得しにくい?
 「重大な過失」の意味について、厚労省が4月に公表した「第三次試案」では、「死亡という結果の重大性に着目したものではなく、標準的な医療行為から著しく逸脱した医療であると、地方委員会が認めるものをいう」としている。
 また、第三次試案を法案化した場合の「イメージ」として、6月に公表した「医療安全調査委員会設置法案(仮称)大綱案」では、「標準的な医療から著しく逸脱した医療に起因する死亡」などとした上で、地理的環境やシステムエラーの観点などを総合的に考慮して、医療の専門家を中心とした地方委員会が「個別具体的に判断する」としている。

 この日の意見交換では、「標準的な医療から著しく逸脱した医療」の意味が問題となった。議論の口火を切ったのは、山口徹委員(虎ノ門病院院長)。「医療界の多くの関心は、委員会に届け出た後に捜査機関に通知されること。『標準的な医療行為から著しく逸脱した医療』という定義は、専門家の中でも見解が違う。多くの医療行為は、全力を尽くして良心的にやっているはずなので、刑事責任を問われるのは、限られたものではないか」

 医療安全調査委員会の設置を強く支援している日本医師会常任理事の木下勝之委員は、「むしろ、『重大な過失』とした方が、『故意に準じるようなひどい過失なんだ』という意味が伝わり、納得してもらえる」と指摘。医療界を説得する上で、「標準的な医療から著しく逸脱した」という表現ではなく、「重大な過失」を使用すべきと主張した。

 これに対し前田座長は「そんなに差はない」と返し、オブザーバーとして出席した警察庁と法務省の担当者も、「重大な過失」と「標準的な医療から著しく逸脱」は同じ意味であると説明した。

 その後も、「重大な過失」か「標準的な医療から著しく逸脱した医療」かといった、“言葉遊び”とも思える議論は続いた。
 児玉安司委員(弁護士)は「この場(検討会)が、医と法の交差点として、社会に向けてきちんとしたメッセージを出していくことが大切」とした上で、次のようにクギを刺した。
 「議事録で、言葉だけで、オーラル・コンポジションだけで、だましてはいけない」

まあ、あのですね、好きに議論していただいていいんだと思いますが、結局一番の問題は第一線でやっている臨床医がついていくかどうかだと思いますよ。
現場にとっては「重大な過失」か「標準的な医療から著しく逸脱した」かが問題なのではなくて、事故調がそのまま刑事裁判へとつながっていくのか、事故調の資料が法廷での証拠として採用されるかどうかといった事の方がずっと大きな問題です。
そのあたりのことをどう処理していくかが、このシステムが患者の言うところの「真実を知りたい」という要求に適うものとなるかどうかの分かれ目になると思いますね。

しかしまあ、今のこの時点で指導力を全く発揮できていない厚労省が何を言おうが誰も相手にしていないんじゃないかと思っていましたら、やっぱり相手にされていなかったみたいですね(苦笑)。

事故調検討会再開「信じられない」―小松秀樹氏

 「こんな時に開催するとは信じられない。今の政治状況でやること自体、むちゃだ」―。医療事故調査機関の設立に向けた厚生労働省の検討会再開について、臨床医の立場から医療崩壊の危機を訴えてきた小松秀樹氏(虎の門病院泌尿器科部長)が主張している。衆院解散・総選挙など政局の先行きが不透明な中、「検討会としてのゴールは決まっていない」や、厚労省案に反対する団体からヒアリングをして抑え込もうとしているとの指摘もある。これまでの会合のように、厚労省が敷いたレールに委員が乗ってしまうだけの “儀式”となってしまわないだろうか。(熊田梨恵)

 厚労省は10月3日、医療事故調査機関の創設について検討する「診療行為に関連した死亡に係る死因究明等の在り方に関する検討会」(座長=前田雅英・首都大学東京大学院教授)の第14回会合を9日の午後に省内で開催すると発表した。

 同検討会の開催は3月以来、7か月ぶりとなる。この間、厚労省は4月に第三次試案を発表し、6月にはそれを基にした「医療安全調査委員会設置法案(仮称)大綱案」を公表して、パブリックコメントを募集していた。厚労省案には医療界からの根強い反発があったものの、このまま大綱案が法案化されるものと誰もが思った。しかし、その一方で、同じ6月に民主党から医師法21条を削除するなどの内容を盛り込んだ、厚労省案の対案となる通称「患者支援法案」が発表された。
 こうした中、超党派の議員立法によって臨時国会で法制化しようとする動きも見られたが、9月末の福田康夫首相(当時)の辞任以来、政局の先行きが不透明になっている。

 「なぜこのタイミングで会合を開催するのか」―。衆院解散・総選挙など政局の見通しが立たない中、医療現場からはいぶかる声が上がっている。

 厚労省によると、今回の会合では第三次試案や大綱案の概要説明が行われるほか、寄せられたパブリックコメントが提出される予定だ。
 担当者は、「事務局としては政局などの動きは関係ない。パブリックコメントなど報告できていないことがあったので開催する。会議は1回の予定だが、今後委員から意見を聞き、どうしていくか検討したい」と話している。民主党案を議論のための資料として提示することはないという。

小松先生も露骨すぎるなあ(苦笑)。
いつ如何なる時であれ議論はどんどんすべきだと思いますが、厚労省の場合こういうどたばたの中で適当にやりましたという既成事実だけ作っておいて、「こういうことに決まりましたから」と流してしまいそうで怖いんですよね(苦笑)。

それはそれとして、政府厚労省が何を決めようが、法的観点からどれだけ整合性を追求しようが、医師会なりの団体がどんな合意をしようが、結局のところ医療崩壊という現象はそんな話とは全く無関係に起こっているものです。
別に民主党の肩を持つつもりもありませんが、近い将来民主党が政権担当した場合に、こういうところで出た結論というものがどう扱われるかというのも興味あるところですがどうなんでしょうか?
いずれにしても、この政局のどさくさに紛れてやっつけてしまおうなどと画策していると受け取られてしまったならば、厚労省にとってもうれしくないことになるのではとも思いますが。

しかし近ごろでは皆揃いも揃って事故調事故調と言っていますが、異論数多のこういうところを無理矢理現場無視でまとめるよりも、患者補償制度の拡充などを話し合う方が優先されるべきなんじゃないかと思うんですが…

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