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2008年9月12日 (金)

医療という名の共有資源 その一

最近医療問題を積極的に取り上げている「NEWS ZERO」で、医療崩壊アンケートなるものをやったそうです。
HPを通じて全国の医師804名の意見を集めたと言うのですが、これがなかなか面白そうなので紹介します。

「医療崩壊」 緊急 医師アンケート 集計結果

Q1:医療崩壊を招いた最大の原因は何だと考えますか?
A_01
医療崩壊の原因にマスコミという項目があればさぞや大人気だったんでしょうが、何故かこの質問にだけ意見を書き込めないようになっているあたりマスコミの思惑が見え隠れする気がします(苦笑)。
それはともかく、医療費抑制、医師の過重労働、訴訟リスクおよび患者のモラル低下がほぼ横一線というところですが、複数回答なので思い当たるものを総ざらえでチェックしているのでしょう。
個別にどれが一番と言うよりこのデータから見て取るべきものは、巷間医療崩壊の主因のように語られている新臨床研修制度について現場の医師は必ずしもそうは見ていないと言うところでしょうか。

Q2:医療再生の最も有効な対策は何だと考えますか?
A_02
こちらもかなり意外と言うべきか読み方を考えさせられるところですが、目立つのは診療報酬改定、訴訟リスクの軽減およびコンビニ受診の抑制といったところ。
非常に興味深いと思う点はQ1医師の過重労働が医療崩壊の主因としてあげられているにも関わらず、医師や医療補助員の増員、女医の復職支援といった最も直接的と思われる改善策が軒並み低評価だと言うあたりでしょうか。
医師増員に関しては医師の間でも意見が極めて分かれるところであって、医療費削減のまま医師数だけ増やすことは待遇低下を招くとか、大勢の医師を抱え込んでいる大学、公立病院の医師業務改善が先だとか、あるいは指導医がいなければ医師数大幅増員など不可能といった意見もあり票が割れるところかも知れません。
このデータからごく大雑把かつ大胆すぎる要約を試みるとすれば、医療業界内の改善策よりもそれ以外の動きに期待するところが大であると言うことになるでしょうか。
A_02_2 A_02_3_2

このQ2の場合小児科と産科は別集計を出しているのですが、これがかなり異なった結果になっているのも興味深いところですね。
小児科がコンビニ受診抑制を掲げるのは例の小児医療費無料という公的扶助が小児科コンビニ受診の元凶とも言われているところからも首肯できるところです。
産科については生涯産科医をやっていればおよそ半数が訴訟トラブルに巻き込まれる計算というくらいに全診療科の中でも最も訴訟リスクが高いと言われていることに加え、福島大野事件のような世間の注目を集める一大イベントの最中であったことも理由でありそうです。

Q3:政府の打ち出している医師不足対策は効果があると思いますか?
A_03
Q2の結果を見れば容易に予想できるところですが、当然ながら評価は芳しくなく80%以上が否定的評価を下しています。
個別の意見を見れば医師数増員という厚労省の方針転換自体にはある程度の評価をしているものの、実効性に疑問を持つ意見が目につきます。
総医師数が充足したとしても偏在が顕在化するだけという意見はその典型だと思いますが、思うに医療崩壊と医師不足問題は重なりあってはいるものの別問題という点に注意が必要なのでしょうね。
設問の対象を「医師不足問題の解決」と見るか、「医療崩壊の回避」と見るかで答えはかなり変わってくるのではないかと言う点でやや煮詰めの甘い設問だったかなという気もします。

Q4:医師を適正に配置するためにはどうすれば良いと考えますか?

ここからは選択ではなく個別意見の書き込みになっていますが、総じて強制配置といった政策にはある程度の実効性は認めるにしても現場の志気低下などの点からも否定的な意見が多いようです。
一方で医師を集めようとするならそれ相応の見返りを用意するべきであって、逆にそうした環境になれば自然に医師は集まるはずだという意見も目につきます。
医局制度の再評価とも関連して、昨今言われている公的な医師派遣システムは医局制度の焼き直しではないのかという(やや皮肉な)声も散見されますが、こうした医師派遣システムが成功するかどうかのカギはかつての医局制度と同様に僻地勤務等の義務とそれに対する見返りという二つの要素のバランスを保てるかどうかでしょうね。
ただこの設問も純粋に(現場の声を無視してでも)医師配置の適正化のための有効策を答える意見と、その悪影響まで考慮し現実的解決策を検討する意見が混在してしまっているように見える点は設問の甘さと言えるかも知れません。

Q5:その他、医療崩壊を感じた体験談などご自由にお書き下さい。

ま、いかにもテレビのネタ仕込みという感じを受ける設問ではあるんですが(苦笑)。
非常におもしろいなと思うのは、こういう言わば公的な場で明らかに労働基準法違反であると考えられる書き込みが散見されるのですが、これらに対してマスコミとして今後どのように対応していくつもりなのかと言うことですよね。
ちなみに日本テレビはそのコンプライアンス憲章の中において「私たちは、放送人、報道機関の一員として、法令の遵守はもとより、社会的良識に基づいたより高い倫理観のもと行動し、公正で健全な事業活動を行います」と宣言していますが、さて…

今日はもう一つ、最近医療関連記事で評価が高くなってきている週刊東洋経済からも一つ記事を引用します。

医師不足はなぜ起きたのか

医療の現場が疲れ果てている。
医療関係者は口々に「20年前と比べようもないほど過密・過重労働になった」と指摘し、産婦人科、小児科を中心に医師不足が顕在化した。世界一の水準と評された日本の医療にいったい何が起きたのだろうか。
医師不足を説明する有力な仮説は次のようなものだ。1990年代末の医療ミス報道に端を発し、患者は医師への不信感を高める。医師は医療の正当性を保証するための仕事が増えるだけでなく、患者からの攻撃を受けやすい診療科から逃避する。そこに2004年からの臨床研修制度の導入による大学医局の弱体化が重なって、医師不足が起きたというものだ。
ここでもカギとなるのは不確実性である。そもそも医療サービスとは確率論的な財・サービスなのだ。
たとえば、自動車や家電製品が故障した際、原因となる部品を交換すれば100%直る。しかし医療はそうはいかない。患者により年齢、遺伝子、既往歴、生活環境などはさまざまで、生命ははるかに複雑だ。また医療技術にも限界がある。病因を完全に特定するのは難しいし、手術操作も標準化できるようなものではない。つまり医療でコストを払って手に入れるのは、あくまで治癒する確率の改善なのだ。
 ところが患者やその家族は、そういう現実を受け止めるのは難しい。患者の信頼を損なう振る舞いをとる医師がいることは確かであるが、医療関係者とわれわれ普通の人びとの間に、医療の不確実性に関する意識の違いがあるのは否めない。
(中略)
 繰り返すが、同じ治療法でもよくなる人もいれば、悪くなる人もいるというのが医療の不確実性だ。
 善意で行った治療が、結果次第で犯罪行為になるとすれば、医師としては自己防衛に動くしかない。そして、その自己防衛の表れが、リスクのある患者を扱わず、楽で収入の多い別の診療科や開業医に移ってしまうことだ。
(中略)
 現在の医師不足が示唆するのは、「不確実なものを不確実なものとして受け止めないでいると、どんなことが起こるか」ということだ。まずは医師不足が深刻な診療科への支援策が必要だが、不確実性の地素区を医師ばかり押し付けるのではなく、社会全体が負担し合う仕組みづくりが重要だ。

医療の不確実性と言うことと並べて、ここでは医療従事者と被医療者の意識の差というものに言及していますが、この意識の差という言葉の中には現状に対する危機感の差ということも含めてよいのではないでしょうか。
地域医療の崩壊や救急たらい回しという現象が一般マスコミにおいても連日報道されるに及んでようやく国民の中にもこうした問題に目を向ける動きが出てきたようですが、一方で笑い話のようなこういう例もあります。

とっくに還暦も過ぎたとあるベテラン医師の話ですが、長年勤めた病院を定年退職した後は頼まれて幾つかの病院を掛け持ちで非常勤医として働いているという状態でした。
この先生が持病が悪化し周囲から入院を勧められたのですが、当人は交代医もいない勤務先の迷惑になるからと頑として拒否し点滴を受けながら仕事を続けていました。
結局のところは何とか落ち着いたのは幸いだったのですが、後日この先生の奥さんが世間話の最中に何気ない態度で言うことには「近ごろ医師不足って言うけど、このあたりじゃ実感ないわよね」だそうで、老先生も思わず苦笑いだったとか。

結局のところ国民にとっての医療とは何かと言うことが問われているのがこの医療崩壊という現象なのだとすれば、現状はある意味で医療というものを国民全てが自分の目線で考え直す絶好の学習機会とも言えると思うのですが、長くなりましたのでそのあたりに関しては次回以降へ回そうかと思います。

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