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2008年9月11日 (木)

医療の電子化推進 その功罪

まずは珍しく医師業務を軽減しようという話の一つを紹介します。

講演会:勤務医負担軽減へ、医療事務員普及を--山形市 /山形

 データ入力など事務業務に追われる勤務医の負担を減らそうと、医師の指示で、カルテの記載や処方せん発行、
診断書作成などの専門的な事務作業を行う医療クラーク(事務員)の普及拡大を狙った講演会が5日、山形市で開かれた。
日本海総合病院を運営する県・酒田市病院機構の佐藤護法人管理部長が「医師が本来の診療に専念できれば、
患者にとっても良いこと」と訴えた。
 同病院は、電子カルテ導入で、データ入力など医師の負担が激増したことを受け、昨年10月に医療クラークを導入。
現在、正社員11人と派遣社員3人の計14人おり、県内で最も多い。人件費に、年計約2100万円かかるが、
医師の負担が軽くなり、診療に充てる時間は増え、診療費の収入が増えるなどメリットは多いという。

クラーク導入はいいんですが、そもそもこの電子カルテなるものが怪しいですよねえ。
表向きの話によると電子カルテ導入は業務効率を改善するということになっていますが、そんなものは嘘っぱちなのは近ごろではさすがに広く知れ渡ってきました。
現代の病院内で最大のボトルネックになるであろう医師業務に関していいますと、例えば外来診療の効率はざっと二割減というのが常識です。
個人的にはむしろ医療現場の電算化推進賛成派ではあるのですが、現状の現場スタッフの力量や余力、PCの処理能力等を総合的に考えるならば時期尚早ではないかというのが正直な感想です。

そもそも電子カルテで効率化されるのは診療後の精算などの事務仕事が主であって、本来なら導入と併せて事務員を削った上でその分のマンパワーを医師の診療補助に回すというのが筋であるはずなんですね。
今まで病院事務がやっていたコスト計算などの裏方仕事を医師(とPC)に回そうというシステムなんですから、医師の業務量が増えるのは誰が考えても判ることなんですが、何故かこれが業務効率化だなんて言われるわけですから、一体誰の業務を効率化しているのかという話です。
ところが実際に多くの公立病院では色々な事情から(苦笑)死んでも事務員削減なんてことはありえませんから、診療効率低下の分だけ診療報酬減になってしまうわけです。

そこで業務効率化でお暇になられたお役人事務長あたりが「せっかく電子カルテ導入したのに収入減ってるじゃないですか。先生方ももっと頑張ってもらわないと困りますよ」なんてせっつくわけですが、青息吐息の現場は白けるばかりという構図が容易に浮かんできます。
で、現場が何とかしてよと言えばあくまでも事務員の数は減らさずに新規のクラーク導入ですから(苦笑)、せっかく業務を効率化したはずなのに何故か人件費が増えるという意味不明の話になるわけです。

電子カルテというものもタダではなくて、導入には億単位の金がかかるのが一般的ですから、昨今の赤貧洗うが如しという零細医療機関にとっては決して安いものではありません。
全くメリットがないわけではないにしろ使い勝手の面で紙カルテ以上のシステムが現状では存在しない上に、一度でもシステムダウンした現場で働いた経験を持つ人間であればこれに人の命を預けるヤバさというものはすぐ理解できるというシロモノです。
少なくとも地方の中小病院にとっては積極的に推進したがるほどの魅力あるものではないと思うのですが、連年大赤字のくせにやたらと建て替えたがる一部公立病院を始め何故か医療の電算化に対して夢のような未来図を語りたがる方々がいらっしゃるのは不思議と言うしかありません。

それはともかく今のところ力不足を感じざるを得ない医療の電算化推進なんですが、実はこんなものでもちゃんとメリットもあるのですね。
例えば誰がどう考えても使えない、それでも首を切るにも切れないというスタッフに自主退職を促すにあたっては、この手のPC絡みのシステムってものは実に良い仕事をしてくれる場合があることが知られています。
実際に院内電算化を目前にして中高年層スタッフの大量退職なんて構図はどこの病院でも見られる光景ですが、さすがは天下の厚労省がこうした効能を見逃すはずもありません。
今まで紙で出していた診療報酬請求(レセプト)を、今後は全部オンラインで提出しろと言う話が進んでいたりします。

3600施設が廃院検討  医療費請求オンライン化で
 オンラインによる医療費請求が2011年度から義務化されることについて、日本医師会に加入する医師が運営する診療所などのうち、約3600施設が「廃院を考えている」と回答したことが、日医の調査で分かった。

 調査は3-4月に都道府県医師会を通じて実施。有効回答率は59%。

 義務化への対応(複数回答)を尋ねたところ「間に合うように対応」が50%、「厚生労働省の環境整備を待ちたい」が24%などとなった。

 これに対し「廃院を考えている」は9%に相当する約3600施設。これを運営する医師の年代別に見ると、70歳以上が約2100施設と6割近くを占めた。

 医療機関が、健康保険組合などに医療費を請求する場合、現在は紙やFDなどの磁気媒体に記録した診療報酬明細書(レセプト)を郵送することが多いが、審査の効率化などのため厚労省は今春からコンピューターによるオンライン請求を段階的に拡大。11年度からは、診療所を含めた全医療機関が対象となる。

年配の医師がやっている零細診療所ではまともな医療事務などそうそう雇う余裕もないところが多いです。
古いレセコンなんかを使ってちまちまやっていた作業をオンライン化しなさい、そのためのシステムを導入しなさいと言われても、資金的にも能力的にも対応無理だって話になる診療所が多いでしょうね。
厚労省は「医師には定年など存在しない」と豪語しているようですが、定年はなくとも近い将来高齢医師の大量離職が発生するだろうと予想されている背景にはこういう事情もあります。

しかし少し前までは「かかりつけ医をもちましょう」だの「すぐ大きな病院にかかるのはやめましょう」なんて言ってたと思いましたが、近ごろはいつの間にか「やっぱり医者は集めないと」と言いつつ開業医の診療報酬を削ってみたりと地域のかかりつけ医潰しに熱心ですよね。
そう言えば鳴り物入りで導入したはずの新臨床研修制度も早速見直すだとか、せっかく潰したはずの医局制度をまたぞろ復活させようだとか猫の目行政とも見える話が相次いでいるんですが、まさか行き当たりばったりで適当なことをやってるなんてことはないですよね。
しかしまあ、近年の厚労省の政策というものはむしろ行き当たりばったりでやってるにしてはあまりに「的確すぎる」って事が気になるところではありますが…

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