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2008年9月 6日 (土)

大野事件後に医療事故調問題を考える その三

前回は厚労省の見解を引用しましたが、これに対して医師団体の立場はどうでしょうか。
長年にわたって実質的に唯一の医師団体として君臨してきた日本医師会は、末端会員の声なき声による根強い反対にも関わらず厚労省案を全面支持という格好です。
さすがにこれには愛想が尽きたという医師も多いようですが、最近ネット上で活躍する医師諸氏が中心となって医師会に対抗する第二の医師団体とも言うべき日本医師連盟が設立されました。

この医師連盟なる組織、まさに医療崩壊という現象が契機となって危機感を抱く医師達によって結成された団体ですが、未だ会員数からすればいたって弱小の組織にしか過ぎません。
組織の行く末も現段階ではあまりはっきりと見えてこないところもあるのですが、とりあえず医師会の見解=医師の意見の代弁者という世間の偏見を解消する意味では対立軸としての存在意義は決して小さなものではないと思いますね。
さてこの医師連盟はかねてから厚労省案に反対の姿勢を示していましたが、先頃ようやく独自の調査機関案を発表しました。

全国医師連盟試案の骨子平成20年9月1日 

 医療関連死および医療行為に伴う健康被害に関しての、原因究明・再発防止に結びつく調査機関の制度設計は、WHOガイドラインなどの国際的水準に合致する形で行うことが必要であると言われています。また我々は、それが、現在危惧されている萎縮医療を防ぐ為にも有用と考えています。

 理想的な調査機関を作るには、本来、過失犯の刑事処罰が社会にとって有益であるかどうかという議論を踏まえたうえで、刑法 209条、210条、211条の改正を視野に入れて国民的議論を喚起することが必要と思われます。しかし、実体法の改正は多方面への多大な影響が予想され短期間には困難と考えています。

 そこで、全国医師連盟では、医療事故の鑑定システムの構築と、刑事・民事訴訟に事故調の判断を先行させる仕組みを手続法の改正により実現する、全医連試案骨子を作成しました。なお試案本文は、9月中の発表を予定しています。

医療崩壊を危惧して誕生した組織だけに、まず継続的、持続的な医療供給の確保という視点を基本線として打ちだしている点と、警察、検察との合意という口約束だけの厚労省案と異なって事故調を司法捜査より優先することを明文化している点、そして事故調と同時に患者救済システムの設立をうたっている点が注目されます。
全体の方向性としては厚労省案より民主党案に近い印象を受けるのですが、以下に続く概要はいささかあれもこれもと盛り込みすぎて読みにくく報道記事の方がわかりやすいと思いますので、ここではCBニュースから引用してみることにします。

医療事故原因究明で試案骨子―全医連

 病院の勤務医らでつくる全国医師連盟(黒川衛代表)は9月1日、医療事故の原因究明・再発防止策に関する試案の骨子を公表した。捜査機関が犯罪の疑いを抱いた場合は、事故原因の究明を担う医療安全調査委員会(医療安全調)に調査を依頼し、医療安全調による意見が出るまでは捜査に着手してはならないこととするよう提案している。9月中に試案の全文を発表する予定で、全医連では「舛添要一厚生労働相などに陳情したい」としている。

 試案の骨子によると、医療安全調は内閣府の外局として設置し、全国の高裁の所在地に地方委員会を置く。また、医療安全調が取り扱う対象は、医療事故による死亡(疑いがあるケースを含む)だけでなく、「医療行為に伴う健康被害が生じた場合」で、地方委員会の下に置く調査チームが調査を実施するとしている。

 医療安全調への届け出は医療機関か医療従事者が行い、医療安全調は、患者・遺族からの調査依頼も受け付ける。調査に必要な証拠を保全するため、医療安全調には、裁判所の発行する令状に基づき、強制的に資料を収集する権限を持たせる。調査の結果、医療機関の行為が医学的に不適切で「刑事手続き相当」と医療安全調が判断した場合は、捜査機関に通知。同時に、根拠となる客観資料(調査対象になった医療者の供述内容の記録は除く)を交付する。

業務上過失致死について、試案の骨子では「刑事手続き相当」とする医療安全調からの通知と、遺族による告訴の両方を起訴要件とする「親告罪」に位置付けるよう提案している。捜査機関は、医療行為に関連する死傷の結果に疑念を抱いた場合、医療安全調に調査を依頼し、委員会が「刑事手続き相当」と判断するまでは捜査に着手してはならないようにするなど、謙抑的な刑事手続きの運用を打ち出している。

 医療安全調は調査結果を患者や遺族、医療機関、厚労省の医道審議会に報告。調査の結果、事故の原因がシステムや制度に起因すると判断した場合は、医療機関による再発防止策を提言したり、関係省庁に必要な措置を勧告したりする。医療安全調の報告書は「民事紛争での使用を妨げない」としている。

 また、医師法21条を改正し、医療関連死の警察への届け出対象を、過失犯を除く刑法犯によるものに限定するよう提案。さらに、安全対策を講じない医療機関の管理者や設置者に対する処分や、医療機関に対する行政処分の新設も打ち出している。

■「医療被害補償基金」の設立も提案

 試案の骨子では、医療被害者救済策の一環として、無過失補償を目的とする「医療被害補償基金」の設立も提案している。
 医療安全調による調査で医療側に過失がないと認定された場合、患者や家族は法令で定める額を補償金として受け取ることができる。医療機関に対する損害賠償請求権など「一切の請求権」を放棄することが条件

 一方、調査により医療側の過失が認められた場合は、▽医療機関に損害賠償を請求する▽損害賠償請求権を放棄した上で補償金を受け取る―のどちらかを選択できるとした。

このなかで特に注目されるのは、医療訴訟との関連で下記の三点でしょうか。

・業務上過失致死について、試案の骨子では「刑事手続き相当」とする医療安全調からの通知と、遺族による告訴の両方を起訴要件とする「親告罪」に位置付けるよう提案している。

・医療安全調の報告書は「民事紛争での使用を妨げない」としている。

・医療安全調による調査で医療側に過失がないと認定された場合、患者や家族は法令で定める額を補償金として受け取ることができる。

福島大野事件に見られるがごとく刑事訴訟の医療界に与える影響大なることを考慮すれば、専門家による調査でよほどの事が認められない限り刑事訴訟には至らせないというルール作りには意義があると思われます。
また民事訴訟への報告書の流用を認めるという点で証言の信頼性をどう担保するかという問題が発生するわけですが、被害者補償制度によって遺族側の不満を解消することで実質的な訴訟への持ち込み件数を減らすという方向性は、北欧あたりのシステムに近いもののようです。

一読した印象では厚労省案と比較して、医療と司法の関係をより突き詰めて考えている案だなというところでしょうか。
もともと医師連盟の創設メンバーには「元検弁護士のつぶやき」など司法系サイトで活躍された方々が含まれているようですから、そちらの筋から色々と検討を重ねてきたのかも知れません。
このように構想としてはかなり練られているなという印象を受けるのですが、それだけにやや理想論過ぎると言いますか、関係省庁間のすりあわせ作業や関連法令の整備といった実作業面を考えると実現への道はかなり遠いのかなという思いも拭いきれないところがあります。

また医療側の懸念にかなり配慮したところが見て取れる案であるだけに、最大の問題点は患者側(国民側)がこの案に納得するかどうかということではないでしょうか。
何しろ「医療事故被害者の声」と言うものはマスコミ的な扱いも大きい上に、何より有権者数として考えるならば医療サイドは最大限に見積もってもたかだか一億人の中の数十万というレベルの少数派に過ぎないわけです。
厚労省案に対しても既に諸団体が不満の声を上げていますが、それと比較してもさらに医療側寄りの案と見られるだけに国民からの支持を得られるかどうかが実現性をはかる一つのポイントでしょう。

この辺りも絡めて次回以降へ続きます。

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コメント

全国医師連盟、小生も会員になっていますが

>やや理想論過ぎると言いますか、関係省庁間のすりあわせ作業や関連法令の整備といった実作業面を考えると実現への道はかなり遠い

と言う点は同意です。しかし、医師側の本音の要求を出さないで遠慮してると、今までのように、オマエらがきちんと情報発信しないから医療崩壊したんだ、みたいに言われますからね。(^-^;

当面政治がgdgdなので法制化は先送りになりそうですから、多くの議論を重ねてよりましな制度を創設すべきだと思います。

投稿: 元外科医 | 2008年9月 6日 (土) 20時17分

元外科医さん、貴重な情報ありがとうございます。
内部事情に関しては何となくそんな感じなのではないかなという気はしていました(笑)。
全医連はある意味で小所帯であることが現状の強みであるわけですから、今は変に妥協せず徹底して理想論を出していくくらいのつもりでいいんじゃないかと思いますね。
少なくとも医師会以外の発信源が出来たというだけでもその存在意義は小さからずと思って見ています。

投稿: 管理人nobu | 2008年9月 7日 (日) 21時40分

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