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2008年9月30日 (火)

銚子市立病院閉院 勝ち組病院と負け組病院

地域の基幹病院が廃院ということでちょっとしたニュースになった銚子市立総合病院ですが、いよいよ本日で終わりになるそうです。
市の決断自体はそれなりに英断だったとも言えるのかも知れませんが、背後に見え隠れする事情はかなり香ばしいものがあった様子。
まずは記事から抜粋してみましょう。

銚子市の市立総合病院390床、財政難で休止

 千葉県銚子市の市立総合病院(393床)が財政難のため、30日を最後に休止する。これだけの規模の自治体病院が行き詰まったケースはあまり例がない。市は医師不足を招いた国の施策を非難するが、市の経営姿勢こそ問題との指摘も出ている
(中略)

市側主張 日大が医師引き揚げた 大学側反論 希望者がいない

 「万策尽きた」。岡野俊昭市長は休止を発表した7月7日の記者会見でそう語り、日大の医師引き揚げが大きな要因と主張した。
 同病院は日大医学部の関連病院で、2006年4月時点で常勤医35人中28人が日大出身だった。今年4月は13人中7人。日大出身者が2年で4分の1に減ったことが常勤医減に直結した。医師減少で患者も減り、収益は03年度の約37億円から07年度は約20億円に。
 とどめを刺したのが「医師引き揚げ」と言う市は、04年に国が導入し、地方の医師不足を加速したとされる新臨床研修制度にも批判の矛先を向ける。
 しかし日大の片山容一・医学部長は「引き揚げたのではなく、派遣期間を終えた医師の後任を補充できなかった。銚子に行きたい人が見つからなかった」と反論する。50以上ある関連病院への医師派遣は1~2年単位で、本人の希望を優先するといい、「将来展望がない、との評判が立てば誰も希望しなくなる。市の責任こそ問われるべきだ」と指摘した。
 市も、医師の手当引き上げや全国自治体病院協議会の紹介などの新ルート開拓を試みたが、休止への流れは止められなかった。協議会の紹介で昨秋着任した松井稔医師(44)は「経営努力を感じなかった。健康診断を重視するなど地域病院としての方向性を示す手もあった」と語る。
 全国に約1000か所ある自治体病院の75%は赤字。伊関友伸・城西大准教授(行政学)は「自治体病院の崩壊が一気に進むとは思わないが、大学病院に頼ればいい時代でなくなった今、将来展望がなく、医師の待遇改善に消極的な病院から徐々に傾いていくのでは」と予測する。

以前にも書きましたが、自助努力もなく何らの魅力もない病院など潰れて当たり前という時代になったということですね。
別に医療に限らずどんな業界でも当然のことなのですが、たまたま医療業界においては人材不足が目立っていることから人を集められる勝ち組病院と人が逃げ出す負け組病院とが二極化してきているというだけの話です。
そしてそういう話となってくればダイナミックな動きが出来る市立病院の方がよほど好条件を提示できるというのは容易に想像できることで、何の魅力もない公立病院にとっては今後も氷河期が続くことになるでしょうね。

そもそも医療自体が儲からないものとなっている今の時代、全ての医療分野を網羅しようとすれば赤字部門が発生するのは当たり前のことという認識をまず持たなければなりません。
黒字になるものであれば民間がやればいいわけですから、公立病院とは民間が行わない赤字部門を引き受けるという点にこそその存在意義があるという見方も出来るでしょう。
問題は同じ赤字でも民間では考えられないような非効率・不条理な経営による赤字幅の拡大が慢性化していること、そして地域の公立病院として提供すべき医療とは何かというコンセンサスが市民にも行政にも、そして当の病院にもないという点でしょうね。

民間よりはるかに好待遇な事務その他スタッフならともかく(苦笑)、そもそも公立病院の医師などと言うものは賃金や労働条件など民間に比べて低待遇であるのに加えて「来たくもないのに仕方なく来ている」という低モチベーション状態なわけです。
「需要があるからこれをやってみよう」「利益が見込めるからこっちに手を広げよう」などと現場を知らない司令部からお馬鹿な指示が乱れ飛ぶたびにますますモチベーションを低下させていき、最終的に「行きたい人が見つからない」という事態になるのは当然のことでしょう。
公立病院は公立病院でしか出来ない最低限の仕事だけを行うように業務を縮小していかないと、数少なくなった残る医師達も早晩疲弊して逃げ出すだけですよ。

実はこうした縮小均衡のモデルは既に存在しています。
基本的に医師の分布は西高東低と言われますが、東北地方は日本でも医師不足の目立つ地域であり、かつ今後も医師供給が劇的に改善する見込みはありません。
好むと好まざるとに関わらず少ない人数で回すことを強制されるわけで、そうであれば業務の内容を見直すしかないというのは当然の考えでしょう。
注目すべきは「正しい努力を行っている自治体病院が存在する」ということ、そして「正しい努力を行う病院に集まる医師は存在する」ということ、この二つの事実ではないでしょうか。

【特報 追う】東北の医療(下)少ない医師でも効果あり 地域にあった病院運営

 一方、公立病院でありながら10年以上黒字を続け、医師離れも生じていない例がある。人口1万人に満たない岩手県藤沢町の町民病院(病床数54)だ。町の「価値ある長寿社会」との方針に合わせ、高齢者医療に重点を置いた病院運営を行っている。
 町民病院を中心に、特別養護老人ホーム、デイサービスセンター、グループホーム、訪問看護ステーションなど各施設を設置。ケアの各段階ごとの情報を町民病院を中心とするシステムの中で統合し、高齢者のケアを行っていく仕組みだ。
 同病院の設立(平成5年)から参加した佐藤元美院長(53)は「ビジネス用語で“垂直統合”と呼ばれる方式。これにより、少ない医師でも患者のケアに最大限の効果を発揮することができる」という。

 現在、同病院には5人の常勤医がいる。病院と地域との繋がりを深めるため、全医師が訪問診療を行っている。佐藤院長自らも住民説明会を開き、病院運営の見通しや、“医師も人間である”ことを住民に理解してもらっている。また医師用の住宅の整備も進めた。
 こうした努力の結果が、高待遇をうたうわけでもないのに、大学病院からの引き揚げ要請を断り町民病院に残ったり、県外出身ながら着任を志望する医師の心をつかんだようだ。
 「医師が離れないのは、仕事しやすい環境作りの成果だと思う。医療制度上の問題や一部に対応の難しい患者がいるのも、他の病院と同じ。でもそれはわれわれが解決できる問題ではない。藤沢の医療のために、やれることをやっていくだけ」。佐藤院長は力強くそう話した。

                ■ ■ ■

 地域医療、医療行政に詳しい伊関友伸・城西大学准教授は、東北の公的医療について、「全国で一番医師不足に苦しんでいる地域。自治体病院は、これまで大学病院の派遣医師に頼り、自らの努力で医師を招聘(しょうへい)する努力を怠ってきた。待遇も民間病院に比べて悪く、医師にとって魅力がない病院になっている」と分析する。 医療崩壊を防ぐためには「待遇を民間並みにするのが重要」という。ただ地方自治体の財政が厳しい状況では困難だ。そこで、「医師がやりがいを感じる職場づくり」を挙げる。そのよい例が医療と行政が一体となった藤沢町の試みだという。 
 伊関准教授は「地方の公的医療は、“あれもこれも”ではなく、その地域でどんな医療が必要なのかを考え、それにふさわしい規模で運営するのが望ましい」と指摘している。

多くのプロフェッショナルと同様に、医師もまた「モノの判っている」人たちと仕事をしたいと思っているわけです。
モノの判っていない人たちが正しくもない行動を取っておいて「医者がこない!国が悪い!医局が悪い!」と叫んで見たところで、まともな医師ほどそんな病院・自治体は相手にするはずもありません。
仮に国家の強権による医師の強制配置などという制度が実現したところで、そういう病院に嫌々派遣されてくるのがどんな医師達かと想像してみるべきでしょうね。
医師はそもそも有限の人的資源ですが、まともな医師はさらに限られた貴重な存在であって、今や目先の利く病院ほどまともな医師を囲い込むために日夜必死の努力しているということなのです。

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