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2008年9月 9日 (火)

JR西日本社長送検

JR尼崎線の脱線事故の件、何となく記事を眺めておりましたら色々と突っ込みたくなる話があるようです。
あちこちの報道から主だったところを抜粋してみます。

JR西日本・山崎社長ら10人書類送検 宝塚線脱線事故

 乗客106人が死亡し、562人が負傷した05年4月のJR宝塚線(福知山線)の脱線事故で、兵庫県警は8日、JR西日本の山崎正夫社長(65)ら歴代幹部9人と事故で死亡した高見隆二郎運転士(当時23)の計10人を業務上過失致死傷容疑で神戸地検に書類送検した。列車の運行や安全管理を担う幹部が過失責任を問われるのは異例。地検は年内をめどに起訴の可否を判断する。

神戸地検は被害者対策の一環として、近く事故の遺族と負傷者全員に、どんな処罰を求めるか、検察官との面談を求めるかなどを尋ねる手紙を郵送するほか、問い合わせに対応する専用の電話回線を設置する。検察当局が本格捜査の前に、多数の被害者から捜査や処分に関する要望を集約するのは例がない。

 尼崎東署捜査本部の調べでは、高見運転士は05年4月25日午前9時20分ごろ、兵庫県尼崎市のJR宝塚線塚口―尼崎駅間で快速電車(7両編成)を運転し、カーブの制限速度(時速70キロ)を超過した時速116キロで進入。1~5両目を脱線させ、先頭車両が線路脇のマンションに突っ込むなどし、乗客668人を死傷させたとされる。

福知山線事故、JR西日本社長ら10人書類送検…兵庫県警

 発表によると、山崎社長、梅原利之・JR四国相談役(69)ら5人は、1996年12月に現場カーブを半径600メートルから304メートルに付け替えた前後に、安全対策を担当する鉄道本部の幹部らだったが、自動列車停止装置(ATS)を設置しなかった。この結果、2005年4月25日、快速電車(7両)が速度超過で現場カーブに入って脱線し、乗客を死傷させた疑い。

 県警は、付け替え当時、鉄道本部長だった山崎社長らが、ATSを設置せずに安全対策を怠った過失があると判断。起訴を前提とした「厳重処分」に次いで重く、刑事処分の判断を地検に委ねる「相当処分」の意見をつけた。

 また、徳岡研三・元鉄道本部長(61)ら4人は、2003年9月に決まったATS設置の工事遅れや、懲罰的な日勤教育と余裕のないダイヤで運転士にプレッシャーを与え適切な安全管理を怠った点で過失があったとされるが、県警は、「事故との因果関係は薄い」とし、起訴を求めない「しかるべき処分」との意見にとどめた。

 調べに対し、9人全員が「あれほどの速度でカーブに入るとは想像できなかった」と事故の予見可能性を否定している。

【JR脱線事故】「いばらの道」振り返る捜査員 3年半に及んだ捜査

 兵庫県警はJR西日本関係者10人の書類送検という答えを出した。電車に乗り合わせただけの乗客が犠牲になった重い結果と、個人の過失を問う業務上過失致死傷罪の適用の難しさの間で、ぎりぎりの選択の結果だった。「幹部立件か見送りか。どちらを選ぶにしてもいばらの道だった」。県警幹部はこう振り返った。
(略)
 捜査本部は信楽高原鉄道事故(平成3年)や、日航ジャンボ機墜落事故(昭和60年)など過去の大規模事故を担当した他県警の捜査員にノウハウを学ぶことからはじめ、これまでにJR西社員500人以上から事情聴取。他の鉄道会社や学識経験者50人以上からも説明を求め、あらゆる角度からの検証を尽くした。

 それでも捜査本部は事故後しばらく、立件を前提とした山崎社長の被疑者としての聴取は想定していなかった。個人の過失を問う業務上過失致死傷罪の適用には「壁」があったからだ。

 今年2月、停滞していた捜査に転機が訪れた。遺族の1人が、現場カーブの付け替え時に自動列車停止装置(ATS)を設置しなかった過失を問い、山崎社長ら3人の告訴状を提出。3月には別の遺族が、別の安全対策部門の幹部を含む7人を告訴した。

 刑事訴訟法は、警察が告訴を受理した場合、書類を検察庁に送付(送検)しなければならないと定める。この告訴で、送検を前提とした捜査が可能となった。

 捜査本部にとって、2つの告訴は「追い風」。「立件を目指して捜査を進めてきたが、正直なところ告訴が出たことで半分は肩の荷が下りた気がした」。ある捜査幹部は、告訴状を目にした瞬間の胸中を率直に明かした。

遺族に配慮、苦渋の結論 JR西とせめぎ合い

 一方、遺族らでつくる「4・25ネットワーク」をはじめ、事故被害者は何度も県警に足を運び「役員も厳正に捜査し、立件してほしい。情報も教えてほしい」と訴えた。

 「捜査中で詳しいことは申し上げられない」と県警。しかし、紋切り型の回答とは裏腹に、遺族らが納得できる結論を出したいとの思いが募っていった。

「なぜ乗客が百六人も亡くならねばならなかったか。普通に安全対策を実施すれば起こるはずがない」。捜査本部に幹部の声が響いた。

 ▽起訴への道

 日勤教育、過密ダイヤ…。捜査はさまざまな角度から進んだ。その中で「カーブ付け替え時にATSを設置していれば、事故は回避できた」だけが明白だった。安全対策を決定していたのは鉄道本部の会議。本部長だった山崎社長らの責任を問う余地があった。

 しかし、当時はATSの設置義務はない。予見可能性を裏付ける証拠も乏しいままだ。

 起訴を求める「厳重処分」ではない「相当処分」の意見は、本部長以下の幹部が顔をそろえた会議で決まった。反対はなかったという。

 何とかJR西経営陣を立件する道を残した書類送検。今後の判断は検察に委ねられたが、鉄道事故で経営陣が起訴された例はなく、県警幹部からも「起訴は難しいだろう」との声が漏れる。

 検察関係者も「証拠がないのに情に流されて起訴はできない」とした上で、「しかし、突然命を奪われた遺族は簡単に納得できないだろう。不起訴となっても、検察審査会の議決を経れば、公判廷で責任を問うのは法的には可能だ」と話した。

社長送検 JR事故捜査1230日 <下>

 「JR西日本への憎しみや怒りは事故発生当初から少しも変わっていない。JRの責任が問われないのは納得がいかない」

 今年に入り、遺族の一人が1通の告訴状を兵庫県警尼崎東署の捜査本部に提出し、こう訴えた。
(略)
 刑事訴訟法上、告訴を受けた警察は速やかに書類送検しなければならない。兵庫県警にとって、告訴はまさに、捜査を推し進める“追い風”となった。

 「真の意味で、再発防止を尽くす体質に生まれ変わってほしい」。書類送検こそ、その契機となるはずだ、と。約4時間に及んだ聴取で、捜査本部は遺族の心情を調書に記した。

【JR脱線事故】神戸地検の起訴の可否判断が今後のカギに

 遺族や負傷者らが起訴を求めているのは懲罰感情だけでなく、公判が開かれなければ捜査資料が開示されないとの理由も大きい。

 このためすでに一部の遺族の中では、仮に5人を含む幹部らが不起訴となった場合、検察審査会へ申し立てることが想定されている。

 これまで、検察審査会の議決には法的拘束力がなかった。「不起訴不当」や「起訴相当」を議決され、検察が再捜査するケースはあったが、大半は再び不起訴となり、公訴時効を迎えることが多かった。

 しかし、裁判員制度とともに来年5月に施行される改正検察審査会法では、2度の「起訴相当」で必ず公判が開かれるようになる。具体的には「起訴相当」が議決されると、検察は3カ月以内の再処分を求められる。ここでも不起訴だった場合、再審査が開かれ、審査員11人中8人以上が「起訴相当」と判断すると「起訴議決」が出され、裁判所指定の弁護士が強制起訴。公判に持ち込まれることとなる。

 今回の事故の場合、改正法が適用される公算が極めて高く、今後の行方が注目される。

【JR脱線事故】経営トップの責任はどこに 書類送検で立件困難さ浮き彫り

 JR福知山線脱線事故で兵庫県警は8日、JR西日本幹部ら10人を書類送検し、3年4カ月以上に及ぶ捜査を終結した。平成8年の現場カーブの付け替え時や事故当時の経営トップは送検対象に含まれなかった。安全が第一に求められる公共交通機関が引き起こした未曾有の大惨事だけに、遺族の一部や専門家からは、当時の経営トップの刑事責任を強く求める意見があがっていたが、法的な壁もあり、立件は見送られた。

 「当然、トップの刑事責任は検討したが、社長が出席する役員会議で安全面に関する話はあがっていなかった」

 県警幹部がこう説明するように、経営トップが送検対象に入らなかったのは、事故当時の安全状況について詳しい報告を受けていなかったと判断されたことが大きな理由だ。
(略)
 公共交通機関の事故で組織トップの責任を問うことが難しいのは、適用罪状が個人の過失を罰する刑法の業務上過失致死傷罪であるためだ。現行法では、事故発生時に組織としての過失責任を問う法律はない。捜査当局は社長であってもあくまで個人としての過失を立証しなければならない。

 福知山線の事故で書類送検された安全対策の幹部らの立件でさえも「個人の過失を問うのは非常に難しかった。あらゆる切り口を考えた」(兵庫県警幹部)というほどだ。

 鉄道事故に詳しい安部誠治・関西大教授(公益事業論)は「事故の再発防止という観点から言えば、経営トップの刑事責任を問うのは必ずしも有益とは言えない。とはいえ、大きな事故について、責任者に業務上過失致死傷罪を適用する現状にのっとって考えるならば、業務を統括する社長が書類送検されないという今回の書類送検の内容は理解しがたい。事故の法人責任のあり方については、さらに検討を進めていく必要がある」と話している。

まずは事故で亡くなられた犠牲者の方々のご冥福をお祈りすると共に、ご遺族の方々にお悔やみを申し上げます。

さて、これらの記事を見ていきますと、どこかで見たような構図と言う気がしてくるのは自分だけでしょうか。
警察や検察という組織は法に則った公平な判断をするというのが大原則だと思っていたのですが、むしろここに見られるのは法解釈を歪めるかの如き恣意的な判断のオンパレードではないですか。
会社幹部の責任を追及するという点の是非はまた別問題としても、遺族感情に配慮するという一点を錦の御旗にどんな方法論でも許されるのだというのであれば、それは私的制裁機関と何ら代わりはないのではないでしょうか。
何よりそれ以上に、本当に追求すべきJRの問題点はそこだったのかと言う最大の疑問が全く置き去りにされている気がして仕方がありません。

この事故に関して言えばまだ完全に解明が終わっているわけではないと思いますが、時刻表通りの運行というプレッシャーだとか運転手の精神状態など今まで指摘されている改善すべき問題点は幾らでもあるわけです。
「普通に安全対策を実施すれば起こるはずがない」とか「ATSを設置していれば、事故は回避できた」なんて要約をして終わってしまっていいんでしょうか?
この事件が仮に有罪判決で終わったとして、「それじゃATS設置を急ぎますね」で本当に同種の事故は二度と起こらなくなると言えるんですか?
この警察の捜査方針からは、心身ともに悲鳴を上げながら今日も列車を走らせているだろう現場の生の声が何一つ聞こえてきません。

何かあれば業務上過失致死傷という法律を振りかざすという今の日本では仕方がないのかも知れませんが、後ろ向きに過ぎる対応を取ることまではともかく、それによって前向きの対応が阻害されるという本末転倒の事例があまりに多すぎませんか。
こういう「警察、検察は攻め易きを攻め、個人や団体は守り易きを守る」という構図が続く中で本当の再発防止策というものがどれほど停滞してきたのか、その結果としてどれだけ国民が損をしてきたのかと言うことを改めて考えてみるべき時期なのではないでしょうか。

大野事件のような社会的影響大となって初めて誰もが気がつくことなのかも知れませんが、何より怖いのは水面下で着々と進行する静かな社会の劣化と崩壊です。
ネットであれ実社会であれ大騒ぎをしている医師達はまだ燃え尽きていない、現場がここを改善しろと声を出してくれているうちはまだいいんです。
本当に問題なのは現場の人間が声を発することもなくただ黙って立ち去っていくことなのだと言う、今の医療崩壊の構図と根が同じという気がして仕方がありません。

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