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2008年8月26日 (火)

厚労省、ついに医師数把握へ動く?!

これについて少し長くなるのですが、まずは昨日報道されました記事をそのまま紹介します。

「実態」表わす医師需給データ作成へ―ビジョン検討会

 厚生労働省は、今後の医師の需給見通しについて、女性医師の労働力を男性医師の0.5と換算するなど、新たな要因を加えて推計し直すことを決めた。8月 23日の「安心と希望の医療確保ビジョン」具体化に関する検討会(座長=高久史麿・自治医科大学長)で厚労省が示した需給推計に「現場の実態から乖離(かいり)した荒唐無稽なデータ」などの批判が委員から上がったため、舛添要一厚労相が、「この検討会のアウトプットとしてこのデータづくりをやってみては。実態に一番近いデータをつくるだけで意味がある」と述べていた。

 厚労省がこれまで示してきた医師の需給に関するデータは、2006年度にまとまった「医師の需給に関する検討会報告書」によるものだ。ここでの需給試算は、同年度の厚生労働科学研究費補助金で実施された「日本の医師需給の実証的調査研究(主任研究者=長谷川敏彦)」に基づいており、いわゆる「長谷川データ」と呼ばれている。ただ、このデータに対しては、医師の労働時間が会議や教育の時間なども含めて週48時間で計算されていることや、医師の年齢が考えられていないことなどに対し、現場の実態に合っていないとする指摘が上がっていた。同検討会の初会合でも同じデータが示されたため、「実際には週40時間の残業などザラ。実態を無視していては予測にならない」(土屋了介委員=国立がんセンター中央病院長)「年々女性が増えているので、タイムスタディをやっていかないと分からない」(嘉山孝正委員=山形大学医学部長)など、現場に即したデータでの試算を求める意見が出ていた。

 23日に示した推計は、初会合と同じ「長谷川データ」によるもの。医師の需要に関しては、医師の週当たり労働時間(当直時間を含む)を、「48時間」「44時間」「40時間」の3パターンで示した。供給に関しては、「定員を過去最大」「定員2割増」「10年で4000人増」「定員増なし」の4パターン (図)。厚労省の担当者は、パターンごとの需給が重なる年度を示した上で、「どれをとっても向こう10年程度は医師数の大幅な増にはならない。女性医師の就業率改善やスキルミックスなどによる対策が必要。地域、診療科偏在などへの対策が不可欠」と述べた。

 この需給試算について、委員らは以下のように意見した。

岡井崇委員(昭和大医学部産婦人科学教室主任教授) 労働時間だけで変化を見ているが、ほかにも影響を与える因子はある。医師は長時間労働になっているため、診療時間を短くせざるを得ない状況。3時間待って3分診療という状態を変えるだけでも(需要は)違う。また、女性医師は育児や出産などがあるので、いいとか悪いとかではなく、男性1に対して、女性0.5で計算しないと厳しい。

嘉山委員 医師の労働時間はもっと長く、週70-80時間は働いている。48時間労働なら医師が逃げ出すわけがない。女性の働き方は今後変わっていくと考えられるので、需給の完全な予測は不可能。何年かごとに見直してほしい。

川越厚委員(ホームケアクリニック川越院長) このデータを見ると、今後医師が余って困るように見える。医師の労働は過剰なところには偏りがあり、例えば産科は当直すると24時間拘束される。どの診療科でどういう人がどう仕事をするかのメリハリをつけることが重要では。医療の質にまで踏み込む話だが、ここまでやらなければ『医師の数は増えたが現場がやらない』と言われてしまう。

吉村博邦委員(社団法人地域医療振興協会顧問) 医師不足は産科や救急、外科が厳しい。あまねく増やすのではなく、厳しいところを増やせるシステムにしなければならない。偏在の問題では、臨床研修制度にも大きな問題点がある。マッチングの見通しでも、昨年度は募集が約1万2000件に対して、学生の応募は約9000人と、3000人が余った。人気のある病院に学生が集中するので、一定期間を地域でやるような仕組みが必要。また、医師の過剰勤務を解消するには、メディカルクラークやトリアージナースなどが重要で、助産師や看護師による医療行為の緩和も必要。専門医が診療するなら報酬を10-20%上げるなどの加算も必要では。救急や分娩に補助を与え、それが個人の医師に還元されるようなシステムが必要。

海野信也委員(北里大産科婦人科教授) あまりに荒唐無稽なデータで、(現在より)2万人増えたら週48時間労働が達成できるように見える。病院は、高次医療や救急医療に携わる医師が苦しいから、そこに数を増やすようにやっていかなければ。この試算自体は間違っていないが、高齢の医師が増えていくと急性期や救急に対応できなくなる。

土屋委員 国立がんセンターでは、常勤医140人に対し、非常勤医が130人。「長谷川データ」は常勤医の勤務時間を用いているが、実際の現場はこうした非常勤医も担っているため、現場の実態を表していない

■パラメーターを変えて「実態」データを
 こうした議論の後、厚労相が次のように取りまとめ、厚労省の外口崇医政局長に検討するよう指示した。
「現実に(制度を)動かすことを考えた時、いつもデータ構築で仕事が半分ぐらい終わってしまう。パラメーターを変えていけばいいので、長谷川モデルを一つの参考とすれば、女性を(男性の労働力を1として)0.5に換算するとか、診療時間を例えば6分間にすることもできる。レジデントの人数なども加えられる。この検討会のアウトプットとして今言ったデータづくりをやってみたらどうか。いくつか組み合わせて、実態はこれが一番近いというデータをつくるだけでアウトプットとして相当意味がある」

 これを受け、検討会の委員は24日、医師の需給推計について、「さまざまなパラメーターを含めて、厚生労働省が推計を行う」とする骨子(案)を提示した。パラメーターとしては、▽自己研修、研究、休憩時間等を含めた滞在時間を用いる▽病院滞在以外にも拘束されるオンコールの時間を含める▽女性医師の労働時間を男性の0.5とする▽非常勤医の勤務時間も含める▽3分診療を6分にする▽高齢者には急性期医療は務まらない▽臨床研修制度によって2年間医師が消えたような状態にある―などを挙げた。

経緯を知らなければ一見して「何の話?」と思ってしまいそうな記事なのですが、少し順を追って説明しましょう。
厚労省は医療を管轄する省庁ですから当然かねてから医師数をどうするかという検討はしてきたわけですが、平成17年に設置されたのがその名の通り「医師の需給に関する検討会」です。
この検討会が平成18年に出した報告書というのが今話題になっているところの「医師の需給に関する検討会報告書」なのですね。
読んでいくと色々と突っ込み所が多すぎてどこから突っ込んでいいものやら迷うのですが、そのあたりを「新小児科医のつぶやき」で実に的確にまとめてくださっています。

もう一度報告書の要点をまとめます。
   1. 平成47年でようやく現在のOECD平均に達する程度の医師数しかいないのに「医師は足りているとした」。
   2. 小児科、産婦人科、麻酔科は不足しておらず新規供給も十分とした。
   3. ほぼ現在の医師数でも週48時間労働になるとした。
   4. 待機時間や待機時間を利用した自己研修時間をすべて休憩時間と定義した。

他にもツッコミところは数え切れないぐらいありますが、私はとりあえずこの4点だけ指摘させて頂きます。その上で謹んで検討会に参加された委員をこう呼ばせていただきたいと思います。
「彼らは15人のユダである」と。

報告書自体はお役所の仕事と言えばこんなものかな~というくらいで済んだレベルなのかも知れませんが、何しろ出た時期が悪かった。
ちょうど世間では医師不足だ、医療崩壊だと大騒ぎをしている真っ最中に政府の公式見解の土台として出てきたのがこの内容だったのですから。
更に悪いことには上記検討会の委員でもある小山田惠氏がこの報告書に激怒してこのようなコメントを発していますが、どうもうっかり過失というより政策的意図をもって作成されたのでは?とも疑われるような経緯であったようです。

 私は,平成十七年二月,厚生労働省に設置された「医師の需給に関する検討会」の委員として会議に出席した.医師不足に悩む地域の実情を訴え,正確な資料を基に,将来を見据えた医師需給のあり方と,今,喫緊に取り組むべき具体的方策を議論して答申書を出すべきだと終始訴えてきた.しかし,平成十八年六月に答申案として出されたものは,それまでの議論や提言の集約とはまったく違うものであり,現状是認という恣意的意図で書かれたもので,到底納得できるものではなかった.「私が全文書き換える」と言って書き改めて提出したが,一顧だにされず,答申書が提出された

 答申内容は,二〇〇四年の医療従事医師は二十五万七千人おり,推定必要数より九千人少ないが,二〇一五年には二十八万六千人,二〇二五年には三十一万千人になる.労働時間を四十八時間として計算すると,勤務医師は五万五千人,診療所医師は六千人不足と試算できるが,病院にいる時間すべてが労働時間ではない.診療行為のみ,または外来診療をやめれば,すべて週四十時間内に収まるというもので,国,地域,病院の工夫によって,医師の生産性を上げることだ,と言うものであった.

ま、昔からどこかの国では「足りぬ足りぬは工夫が足りぬ」などといって他人を戦場に駆り立てるモノが棲息しているらしいですけども…
いずれにせよ長らく厚労省が医師不足を認めていなかったことは既に多くの人々の知るところとなりましたが、当然ながら国会でも医師不足問題は取り上げられているわけです。
その場で厚労相が答弁するその根拠がこの「医師の需給に関する検討会報告書」であるわけですから、どんな結果になるか予想もつこうというもの。
平成2007年初頭に相次いで起こった当時の柳沢厚相の迷?答弁の下地はこうして作られたのでした。

2007年2月7日衆院予算委における枝野幸男議員の質問に対する柳沢厚相の答弁については「ある産婦人科医のひとりごと」に詳しく記載されています。

枝野
 あの〜、別の視点から聞きますと、先ほど私が取り上げました、04年度の厚生労働省調査の時点でですね、医師の数が減っているのは産婦人科と外科だけというふうに厚生労働省調査の結果になっています。この傾向は大きく変わっていないだろうと思います。なぜ産科、産婦人科と外科だけ減っているのか、大臣はご理解されてますか?

柳沢
 え〜、ま、産科はですね、先程来私も触れたかと思いますけれども、出生数の減少で医療ニーズがはっきり低減している、ということの、まあ、反映というふうに、え〜、承知をいたしております。
 外科については、一般の外科という捉え方をすると確かに減少しているんですけれども、医療の専門化が進捗しておりましてですね、先生ご承知の通り、呼吸器外科、消化器外科・・・消化器内科もあるし消化器外科もあるんです、呼吸器内科もあるし、呼吸器外科もあるんです。そういうものについてですね、外科という一括りをして、まあ、あの〜、統計を取ると、いうようなことをいたしておらないと、一般の外科という、つまり外科そのものが縮小しているというふうには我々は考えておりません

いやもうね、何かいっそ清々しいほどの(苦笑)。
同じく3月6日参院予算委における小池晃議員の質問に対する答弁は「天漢日乗」から。

小池
 もうひとつ、国の責任が医療において深刻に問われているのは、医師不足の問題だろうと思われます。この問題取上げたいと思います。全国各地の医師不足は、病院や診療科の閉鎖といった深刻な事態を招いています。住民・患者の命と健康をおびやかしています。過重労働やストレスによって医師や医療スタッフの心身蝕まれて、医療事故の背景にもなっています。 日本医労連がまとめた実態調査の中間報告によれば、勤務医の9割以上が当直勤務を伴う連続32時間の勤務。月3回。更に3割近くは月に一度も休日を取れない。過酷な勤務状態にあるといわれています。この報告では医師自体が過労死する状態にあるとまとめている。わたくしは日本の勤務医というのは極めて過酷な勤務状態におかれていると思われますが、総理の認識はいかがですか。

柳沢
 え、平成17年度に日本医労連の調査わたくしは存じませんけれど、私どももその問題には関心を払って、え~それを踏まえまして平成17年度に医師の勤務状況に関する調査をいたしました。病院勤務医の一週間辺りの勤務時間でございますけれども、研究時間や休憩に当てた時間など、いわば病院に拘束されていた時間、始業から就業までということでいきますと、約平均で63時間ということになりますけれども、休憩時間等を除いた実際の従業時間は平均で約48時間でございます。で、これでも開業医の方々に比べて病院勤務医の方々の勤務状況は大変厳しいと、いうことは私どもも認識をいたしております。え、そこで、え~厚生労働省としても、このように厳しい病院勤務医の勤労条件を改善していくことは、緊近の課題であると認識をいたしておりまして、第一に医師の集まる拠点病院作り、それから第二にネットワークの構築 、更には病院勤務医と開業医の連携をとるための電話相談医事業のいろいろなそれから労働基準法に違反している事例等にたいする基準監督署の指導の徹底。このような対策を引き続き推進してまいりたいと考えております。
(中略)
小池
 今総理は偏在だという風におっしゃったんですね、で厚生労働省の見解も同じだ、足りないんじゃなく偏在だ。偏在という言葉はですね、もうどこかで余っている、どこかで足りない、こういうのは偏在って言うわけですね。え~~まっ厚生労働省は病院と診療所の偏在とか、診療科目による偏在というのを言ってますが、地域による偏在も言っている。偏在というからには、足りない地域があって、一方では足りてる地域があるということになるんだと思います。えっところが人口当たり医師数トップは日本で今徳島県ですが徳島県もOECDの平均より少ないんです。だからいったいどこに過剰な地域、あるいは十分な地域があるんでしょう?まっ実態として見れば偏在ではなくて、日本中どこでも不足地域だ、というのが実態だと思います。私は充足している地域があれば私はどこか言ってほしいと思いますよ。だから今の日本の医師数の実態というのは偏在ではなく絶対的な不足なんじゃないですか?そのことについてお答えいただきたい。

柳沢
 ま~あの~今委員はですね~あの~OECDの、OECDの例をですね、これを基準としてものをおっしゃっているわけですけれども、私どもとしては日本の国内の状況について観察してそういうことを申し上げております。ですから、例えばある県においてですね、これをいくつかのこの医療圏に分ける、え~あるいは第三次医療圏に分けてみるとゆうようなことをした場合もですね、そこで非常にそれに、お医者さんが非常に厚くいらっしゃる所と薄くいらっしゃる所がある、これは事実でありまして、このことをあの、そういうことをわれわれは観察した結果、今申したような偏在ということを申しあげているというのでございます。

小池
 厚く居る都道府県っていったい何県ですか?言ってください。

幕間 しばしの空白時間、だんだんざわめいてくる「ちょっと ちょっと」と小池君が誰かを指さす。

柳沢
 あるう~もちろん基本的にですね西高東低といった徳島なんかが、今委員も言っておるとおりですとも、私どもはですね各県の中でも非常に厚いところと薄いところがある、そういうようなことで地域的な偏在がある!ということを申し上げているというわけでございます。

小池
 答えられないんですよ。医師が足りている県なんて無いんです。絶対的不足なんですよ。

小池議員のヒートアップぶりに我関せずの柳沢大臣が素敵です(苦笑)。
要するにこの時点における厚労省の公式見解としては「産科医がいないのは少子化で需要が減っているから」であり、「医師過剰の地域などないけれども医師は足りていて偏在しているだけ」であるということだったのです。
このときは幾ら現場から失言の妄言のと叩かれようが省としての立場自体は撤回されなかったわけで、まあさすがに医療行政を統括する省庁として今どきその認識はどうよ…と思うわけです。
けっきょく後任の桝添大臣となって本年6月にようやく医師不足を認めるという「大英断」が下されたわけですが、遅いのが常識のお役所仕事とはいえ幾らなんでも動きが遅すぎませんかと言われても仕方のないところでしょう。

まったくソースなしの話ですが、実のところ厚労省は実働医師数のデータすらも持っていないという噂もあります。
ひと頃は例の医籍登録医師の検索システムではとっくに亡くなった医師も多数引っかかると言うことが話題になりました。

一応これは医師数把握目的のデータベースではないという公式見解になっているようですが、では別にそれ目的のデータを持っているのかと言うと未だにどの資料にも引用がないようなのですね。
実際にまともな元データもないままお好みの結果が得られるように数字操作だけで話をしていたのだとすると、過去に厚労省がやってきた医療行政の迷走ぶりも納得できなくもないとも言えるのですが…
いずれにせよ厚労省もあまり現場の実感から乖離した数字ばかりを出してくるということが続くようですと、今どき騙される馬鹿ばかりでもないということをよく理解してもらわないといけません。

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