« 今日のぐり 名物うどん「横田」 | トップページ | 宇宙関連ニュース二題 »

2008年8月 3日 (日)

救急医療、崩壊!? その二

前回の「救急医療、崩壊!? その一」につづいて、今回はなぜ今の時代に救急医療に手を出してはいけないかを考えてみましょう。

題して「救急医療 やってはいけないこれだけの理由 ~医師編~」

まず医師側から見た場合の救急の最も大きなリスクとは、「ほとんどの患者が専門外である」と言うことではないでしょうか?
そもそもこの専門性と言うものも実のところ、患者側の要求に従って進化発展してきた概念とも言えるわけです。
たとえば一昔前であれば電気製品が壊れたと言えば近所の電気屋に頼んで直してもらうのがごく当たり前でした。
今はどうでしょう?この道50年の電気屋の親父に動かなくなったPC直してもらいますか?なんとなく不安だし嫌ですよね?

人間一人の能力に限りがある以上、「より優れた医療を」という要求はすなわち特定領域への特化の要求に他なりません。
当然のことながら一人の医師にとっては専門外という範囲は年々拡大を続ける一方なわけです。
眼科医に心筋梗塞を診てもらいたいと思いますか?皆さんと同様に、たぶん眼科医の方でもそんなもの診たくないなと思っているのですよ。
それは専門外だから専門医のいる病院にいってねという場合が増えるのは当然ですよね。

本来救急とは診療時間までどうしても我慢できないと言う患者に対して、当座最低限の処置を行うと言うものであるはずでした。
ところが近年では「コンビニ受診」などと言う言葉がある通り、救急医療を夜間外来と勘違いして来院する患者が激増しているのですね。
夜間であれ休日であれ専門医にかかれて当然、日中と同じレベルの医療を受けられて当たり前と思いこんでいる勘違いさん達がなぜ増えるのか?
医療サイドからのアナウンス不足、誤解を煽るマスコミの存在など原因は多々あるでしょうが、いずれにせよ現場にとっては「いつ地雷を踏むか」な状況であることは変わりません。

これにしても一昔前は専門外でも精一杯頑張りましたと言っておけば通用していた部分もあるのですが、今は時代が違います。
近ごろでは専門医がやっていればもっと良い結果になった可能性があるなら何故専門医に送らないの?と言われ、またその分の損害賠償も請求される。
善意のつもりの行為がかえって自分に跳ね返ってくる、それならば最初から専門外など手を出さないでおこうかと言う話になってくるのは当然のことでしょう。
厳罰主義という社会的情勢に照らしてみても、救急医療などに関わるということは当事者たる医師にとって許容されざるハイリスクと認識されつつあるわけです。

また当直医は通常日勤業務をこなした後の医師がそのまま従事しているわけですが、当直医の96%までが翌日もそのまま業務についています
日勤>当直>日勤となりますと少なくとも32時間以上の連続勤務が日常的に行われていることになるわけで、これが何を意味するのか?
本来の能力をもってすれば起こらなかったはずの判断ミスが過労によって引き起こされ、結果として患者の不利益になっている可能性があると言うことですね。

実際のところ24時間満足な睡眠をとっていない人間の能力は、血中アルコール濃度0.1%の者と同程度に低下しているということです。
米国では既に80年代に医師の過労による医療事故というものが問題視され、医師の労働時間に法的制限が加えられてきたという経緯があります。
ひるがえって我が国ではどうかと言えば、未だに「医師は労働基準法の適応対象外だ」などという誤解が巷間広くまかり通っている始末です。
なんでも労基法違反ではと監督署に相談してみたところが、医者だと判った途端に電話を切られたなんて話も漏れ聞こえてくるくらいですから(本当かどうかは知りませんが)。
まずは現場の医師自身が過重労働は明らかな違法行為であって、その結果何かが起こったとすれば医師の責任となる事実を認識していかなければなりません。

そもそもこれも大きな勘違いなのですが、当直医とは本来夜間の診療に従事するための存在ではないのですね。
厚労省が特に通達を出しているので拾ってみますと、当直の定義とはこんな感じになります。

1 宿日直勤務の趣旨
宿日直勤務とは、 仕事の終了から翌日の仕事の開始までの時間や休日について、 原則として通常の労働は行わず、 労働者を事業場で待機させ、 電話の対応、 火災等の予防のための巡視、 非常事態発生時の連絡等に当たらせるものです。 したがって、 所定時間外や休日の勤務であっても、 本来の業務の延長と考えられるような業務を処理することは、宿日直勤務と呼んでいても、 労働基準法 (以下 「法」 という。) 上の宿日直勤務として取り扱うことはできません。
これらの宿日直勤務については、 宿日直勤務に従事している間は、 常態としてほとんど労働する必要がないことから、 所轄労働基準監督署長の許可を受ければ、 法第33条の届出又は法第36条に基づく労使協定の締結・届出を行ったり、 法第37条に基づく割増賃金を支払う必要はないこととされています。

これについては歴史的な経緯があって、当直医に夜間診療を行わせているとなれば当然労基法に基づく労働時間の制限を受けるし割増賃金も払わなければならない。
しかしそれを言い出すと全国の病院が立ちゆきませんから、当直医は働いていないんだよ~と言う役所と病院の暗黙の取り決めとして処理してきたわけです。
実際のところどの程度なら夜勤ではないとなるかと言うと、おおむね当直回数として週一回以内。
実際の労働の程度についてはお上の指導の除外規定が参考になると思いますが、

a 1か月における宿日直勤務中に救急患者に医療行為を行った日数が8日ないし10日である場合において、救急患者の対応に要した時間が最も多い日について勤務医及び看護師ともに3時間以内のもの

b 1か月における宿日直勤務中に救急患者に医療行為を行った日数が11日ないし15日である場合において、救急患者の対応に要した時間が最も多い日について勤務医及び看護師ともに2時間以内のもの

c 1か月における宿日直勤務中に救急患者に医療行為を行った日数が16日以上である場合において、救急患者の対応に要した時間が最も多い日について勤務医及び看護師ともに1時間以内のもの

救急指定病院として見れば実質的には救急搬送などほとんどないような名ばかりの救急病院くらいでなければこういうレベルは満足できないんじゃないでしょうか?

つまり病院が当直医に実質的な夜勤医として救急医療を担当させるなどもってのほかであって、逆に言うなら救急に手を出すなら当直医に加えて救急担当医を用意しなければならないということです。

当然ながら今の時代、そんな医者余りの贅沢を出来るような病院など滅多にないわけで、本来ほとんどの病院が時間外救急医療など行ってはならないはずなのです。

要するに今やほとんどの病院においては、当直医が救急医療を担当するということはそれ自体が既に違法行為であると言うことなのです。
昨今の医療に向けられる世間の厳しい視線を思えば、こんな違法行為などしてはならないし、させるなどもってのほかであることは言うまでもありません。

ちなみに上記の暗黙の了解と言うやつですが、近ごろでは税務署さん(笑)がこの日本的慣習をぶち壊しにしてくださっています

市立3病院追徴税1187万円、宿・日直手当分で告知…長崎税務署
2007年5月15日 読売新聞

 長崎市病院局は14日、市民病院、成人病センター、野母崎病院の市立3病院で、医師の宿・日直手当など総額約3655万円について源泉徴収をせず、長崎税務署から約1187万円の追加徴収の告知を受けた、と発表した。同局は同日付で納付した。
 同局によると、国税庁の通達では、宿・日直勤務1回の手当のうち4000円は非課税となる。しかし、勤務中に医療行為を行った場合は、宿・日直勤務とみなされず、通常勤務として手当全額が課税対象となるが、同局は非課税扱いとしてきた。昨年8月以降、同税務署から調査を受けていた。
 調査の結果、2003年から4年間で、医師112人分、計約1059万円の徴収漏れが分かり、延滞税などを加えた約1187万円の追加徴収を求められた。同局が立て替えて納付し、今後、医師から個別に徴収するという。

実は近ごろでは長崎に限らずあちこちの地方で同じようなことが起こっていまして、さすが国の赤字も増えすぎて税務署も手心を加える余裕も無くなってきているということでしょうか?(苦笑)。
いずれにせよ今の時代当直医として救急医療に関わるということはハイリスクであり違法行為である上に、金まで取られてしまうという恐るべき事実を認識しておかなければならないわけです。

市民もマスコミも口をそろえて「医療ミスけしからん!」と連呼している時代です。
患者のためにと独りよがりな勘違いをし夜を徹して働いたところで、疲れてミスをすれば容赦なく訴えられる。
もちろんそれを理不尽なことと考えてはいけないのであって、ミスをすれば叩かれるのはどの職業であっても当たり前のことなのです。
ならばミスを犯す危険性を少しでも減らしていくためにも、医師はもっと法律遵守ということを真剣に考えていかなければならないのは当然でしょう。
「救急医療などやってはならない」とは、医師として以前に労働者として当たり前のリスク管理でもあるわけです。

さて、全国のまともな判断力をもった医師達が当たり前のことを行うようになった結果どうなったでしょうか?
これがまた不思議なことに、良いことずくめなんですよ(笑)。

肉体的、精神的にも楽にはなるし、早く家に帰って家族と過ごす時間も取れるようになったとか。
医師が足りないんだからと、かえって給料も増やしてもらえるようになったとか。
とうぜんのことながら不本意な訴訟のリスクも減ったとか。

そしてなにより大きな変化として、医師もやっと人間扱いされるようになったんですよ!(笑)

長くなりましたので、「救急医療 やってはいけないこれだけの理由 ~病院編~」は次回「救急医療、崩壊!? その三」として続きます。

|

« 今日のぐり 名物うどん「横田」 | トップページ | 宇宙関連ニュース二題 »

心と体」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/519753/42052723

この記事へのトラックバック一覧です: 救急医療、崩壊!? その二:

« 今日のぐり 名物うどん「横田」 | トップページ | 宇宙関連ニュース二題 »