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2008年8月 9日 (土)

救急医療、崩壊!? その四

前回の「救急医療、崩壊!? その三」に続いて、今回は救急隊の話をしてみたいと思います。
題して「救急医療 やってはいけないこれだけの理由 ~救急隊編~」

まず今回取り上げたいのは、まだいわゆる「救急たらい回し」問題がニュースバリューを持って語られていた昨年末に起こりましたこの事件です。

未明の兵庫、18病院たらい回され 66歳死亡

 兵庫県姫路市の男性(66)が6日未明、吐血するなどして救急搬送された際、近隣の18病院が「医師の不在」などを理由に受け入れを拒んでいたことが分かった。男性は最終的に、約30キロ離れた市外の病院に2時間近くかけて搬送されたが、途中で病状が悪化。搬送先の病院で死亡が確認された。

 市消防局は「最善を尽くしたが、いろいろな条件が重なり、受け入れ先を見つけるのに時間がかかってしまった」としている。

 市消防局などによると、6日午前0時7分、男性の家族から「(男性の)意識がぼんやりしている。目がうつろで吐血した」と119番通報があり、救急隊が出動。受け入れ先の病院を探したが、姫路赤十字病院や国立病院機構姫路医療センターなど18の病院に「専門の医師がいない」「ベッドがない」などの理由で断られたという。

 男性は当初意識があったが、受け入れ先の赤穂市民病院に搬送される途中で心肺が停止。午前1時56分に同病院へ到着したが、同2時17分、死亡が確認された。
(2007.12.6)

幾つかの報道から推察するところ、この患者はもともと肝臓に持病があったとのことで、時間的経過等をみても肝硬変からの静脈瘤破裂等が推察できるところでしょう。
今日の目で見ればこれ自体は「肝臓病持ちで深夜の吐血?そりゃ受け入れ先もなかなか見つからんだろうなあ」で終わるような話ではあるのですが、本当の問題はこの後に発生しました。
なんとまあ!新聞に受け入れを断った18病院とその理由のリストがずらずらと掲載されてしまったんですね。
そしてその内容を見て皆が一様に驚いたのが、どう見ても深夜に吐血患者など受け入れられるはずもないビル診の無床クリニックまで搬送拒否先として載せられていたことです。
「電話するが連絡つかず」って、そりゃつくわけないわなと、もうギャグでやっているのでなければ姫路の消防救急は搬送不能病院件数で日本新記録でも目指していたのか?と思うくらい斜め上な話なのですね。
しかもこの報道以降、近場の病院から「うちは受け入れ出来たけど連絡なんて無かったよ?」という声が続々と上がり始めたのです。
要するに、救急隊の判断ミスによって起きなくても良かったかも知れない「たらい回し」事件が作られた可能性がある、ということです。
そしてこの病院リスト公表以降、当然のように批判の矛先は当地の病院に向けられます、消防救急に向かってではなしに。

さすがにこれは人の道としてどうよ?と思う者が多かったということでしょうか、当然のことながらネット上はあっという間に祭り状態です。
全く真偽は不明ですが、たとえば当時2chであちこち目にしたカキコではこんなものがありました。

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210 名前:卵の名無しさん[] 投稿日:2007/12/07(金) 20:56:56 ID:yx9yLaSC0
>>17
>実は救急隊がリークでもしてんじゃねえの
ようやく今日、裏が取れたよ
やはり救急隊から新聞社にチクったようだ
姫路圏内の病院を叩いて自分たちが動き易いように支配しようという
連中がいるらしい
本当にろくでもない地域だな
これからは救急隊には一切協力しないということで結束しないとダメなん
じゃないか?
これは明らかに宣戦布告だよ
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普段は腰の重い医師会や病院幹部もさすがにこれは放置できないと感じたのでしょう、この件については消防救急とかなり突っ込んだ話し合いをしたようです。
いつも何かとお世話になっている「新小児科医のつぶやき」から転載させていただきますが、

姫路の事件に対してQQ医様から貴重なコメントを頂きました。

    どうも事実誤認があるようですので報告します。先日の事件の後の救急の会で明らかになったのは市内に患者を受け入れられる病院(人も能力も)があったにもかかわらず救急隊の判断ミスで搬送できなかったと言うことです。この件に関しては病院から厳重な抗議が消防、市にあり彼らは火だるま状態でした。消防隊の判断ミスを受けて診療科を限定せずに症状を医療機関へ伝えて判断を仰ぐという議論であったと記憶しています。決して何でもとれと言うことではありませんでした。実際会議中に2、3の医療機関から輪番から撤退するという申し出もありました。その時点では少なくとも医師会の敗北ではありませんでした。診れないものは診れないというスタンスをはっきり伝えたと思います。どうも役人のマスコミ操縦で違った解釈ができるように内容をすり替えようとしている節はあります。しかし実際は今述べたとおりです。

    会議の冒頭に消防から今回マスコミに患者受け入れを断った病院のリストをその理由と共に公表したいきさつが述べられました。これによると新聞社が手当たり次第に市内の病院へ電話して事実確認を試み、これがうまくいかないと市に対して情報公開請求の手続きをとると迫ったそうです。市としてはやむなく公表せざるを得なかったとのことです。一応謝罪らしきものはありました。しかし診察を拒否したとされる病院より厳しい抗議がありました。その病院へは救急隊は患者の病態は知らせずに今日の当直は何科ですかと尋ね、内科(消化器内科)と整形外科ですと事務当直が応えるとそれでは結構ですと応じて以後連絡はなかったそうです。しかし後日の新聞には拒否の字が躍っていたというわけです。新聞を見るまで当直医は自分が断ったことになっているとは全く知らなかったわけです。救急隊は外科対応できる施設ばかり探していたようです。病院の名誉回復をどうするのかとか、患者の隣人がたまたまリストの病院の職員でお葬式の場で皆につるし上げられそうになったなどの抗議もずいぶん出ました。以上です。なかなかこういうニュアンスは表へ出ませんね。

ま、今どき肝疾患の吐血=外科対応と言う時点でこいつら素人丸出しやなと思うわけですが…そしてせっかくの消化器内科医を華麗にスルーですか…
こうして詳しく聞いてみれば現場を知る人間には「さもありなん」と頷ける話ばかりではあるようですが、報道だけではとてもそうは思えませんよね。
この事例のように大きく報道される件ともなればきちんと検証もなされ実態が明らかになるのですが、そうでなければこの件も真相は闇に葬られたままだったかも知れません。

実は以前から救急の現場では半ば常識となっていることがあります。
救急担当たるもの、常に「救急隊は嘘つきである」ということを認識しておかなければならないということです。
世間的にはヒーロー然とした救急隊が嘘つきでは具合が悪いのでしょうか、これもマスコミが決して報道しない医療問題の一つですよね。
たとえばこんな冗談のような話があります。

内科の一人当直。その日の救急当番病院は、地域の総合病院だったのに、多発外傷の患者さんを引き受けることになった。

「自転車で転んだ患者さんです。軽症です。顔から出血しています」

その日の当番病院が忙しいとかで、「自転車で転んだ」患者さんがうちに来ることになった。「内科の先生でも大丈夫です」なんて。
たしかにその患者さんは自転車で転んだんだけれど、その上を、自動車に通過されてた。顔から骨見えて、足はあらぬ方向に曲がってた。血圧は触れたけれど、意識は怪しかった。
多発外傷を内科で診るの無理だから、慌てて当番病院に電話した。さすがに嘘言えないから、正直に話したら、むこうは満床になった。目の前真っ黒になった。そんなはずないのに。
頭真っ白になりながら、ライン取ってモニターつけて、外科の先生と検査の人呼んだ。
待つまでの20分が、長かった。

ご家族の目は怖い
多発外傷の超急性期は、やることが無数にあるように見えて、やることありすぎて、実質何もできない。命に関わるような外傷は、手術室が準備できないと手を出せないし、骨盤を含めた骨折も、状態が安定するまでの間は、手を出せない。
データが揃って人が集まるまでの間、当直はだから、ラインとモニターつないで、あとは傷口洗うことぐらいしか、「治療」っぽいことができない。
応援が来る前に、病院には身内の人がたくさん集まった。

   あなたはどうして叔父の傍らで無為に佇んでいるのですか ? 痴呆なのですか ?

囲まれて、だいたいこんな内容のことを、100倍ぐらい怖くして、尋ねられた。
「今診察を行っている最中ですので、もうしばらく待合室でお待ち下さい」なんてひたすら拝み倒して、その間ほんの数分だったんだけれど、それがもうとてつもなく長かった。

こんなことは実は珍しいことでも何でもなく、昔から幾らでもある話なのです。
例えば「週末の夜の時間帯」「若年成人の意識障害」「妙に遠い地域の救急隊からの搬送要請」と三主徴がそろえばハハァ、急性アル中だなというくらいの勘が働かないようでは当直医などやっていられません。
それは彼らも公務員である以上、どんな手段であろうが患者を置いて帰ればいいのだと思ってしまっても仕方がないことなのかも知れません。
しかし何度も言うようですが、時間外救急など当直医にとっては超ハイリスク超ローリターンであり、病院にとっては切り捨てるべき赤字部門にしかすぎないわけですよ。
それでも地域の要請からやらざるを得ないで続けている病院が多いわけですが、当然ながら少しでも経費削減を図らなければ病院自体が潰れてしまうのです。

各科医師を揃えるなんてほとんどの病院では無理で、常駐しているのは医師一人に看護師一人、検査技師や各科の専門医はその都度呼び出すわけです。
こうした状況下で救急を受け入れる側にすれば、どんな状態の患者が来るかによっていち早くそれに応じた体勢を整えておかなければまともな対応など出来ないのですよ。
救急隊が病院に嘘の情報を伝えることは受け入れ側の対応を誤らせることになり、当然のことながら患者の不利益に直結する行為なのです。

もちろん救急隊も医療に関しては素人であるからには、100%的確な判断など出来るとは誰も期待していません。
そうは言っても最低限、救急搬送という現場に携わる者として求められるべき水準というものはあるわけです。
もちろん地域によっては極めて熱心な救急隊が地元病院と良好な関係を築いているところも数多いですよ。
しかし死後硬直バリバリの屍体を「意識レベル300です!」などと送りつけてくるというのは判っていないからなのか?それとも判っていながら敢えてやっていることなのか?
昨今救急搬送体制の再構築が叫ばれ各地で色々な議論が為されていますが、最も基本となるはずの救急隊自体のレベルアップについてはどうも放置され気味のように感じられる点を危惧しているところなのです。

またも長くなりましたので今回はこのあたりまでとして、次回以降に続きます。

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