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2008年8月16日 (土)

【医療崩壊番外編】 8月20日は何の日? その三

なでしこ快勝!でいささか睡眠不足気味な今日この頃ですが、皆様におかれましてはおかわりはないでしょうか?

それはともかく、いよいよその日が目前に迫ってきました大野病院事件、今回も前回の「【医療崩壊番外編】 8月20日は何の日? その二」の続きをもう少しやっていきます。

今回まず紹介しておきたいのは、CBニュースから配信されたこの記事。
それぞれの産科医、報道関係者、弁護士と三者三様の立場からのコメントも興味深いのですが、特に注目していただきたいのが日本電波ニュース社報道部の真々田弘氏のコメントです。

大野事件から三次試案を振り返る―医療制度研究会

「医療者を代表した声が発信される団体を」
真々田弘・日本電波ニュース社報道部

 救急医療に関するドキュメンタリー番組の制作などを手掛ける真々田氏は、「現場を見ることが取材に対する姿勢」と語った上で、これまでの活動を紹介した。
 真々田氏は、テレビ局のプロデューサーから、「医療が旬になってきたから取材してみないか」と声を掛けられたことをきっかけに、07年6月に6人の内科医が一斉退職した大阪府の病院を半年間取材した。取材の過程で、医師の不足や過重労働の問題などを理解した。真々田氏は、「(この病院の)事務長も状況を変えたいと思っていたが、医者を守るために救急外来を制限しようとしても住民や議会が敵に回った。毎年経営を改善しても、市からの繰越金が年々減っていた。市長が怒鳴り込んで院長を叱る声が患者にも聞こえてくる。これでは医療者も逃げてしまうと思った」と、取材の感想を述べた。

真々田氏によると、取材を続けるうちに制作スタッフは医療者の現状を理解していった。視聴者目線ではなく、医療者側の立場で番組を作ろうと意識が変わり、テレビ局のスタッフも番組の放送直前になって「医療と裁判は相性が悪い」と理解した。
 当初は視聴者からの批判を懸念していたが、予想外に反応が良かったという。真々田氏は「きちんと伝えれば分かってくれるのだと思った。『こんなに医者が頑張っていると知らなかった。もっと伝えてほしい』との感想があった」と紹介した。

 真々田氏は、取材を続けるうちに感じた思いを、次のように語った。
 「医療者が発する言葉を視聴者が待っている。医療をどう守っていくかの提言を番組として出したが、困っている。取材をする中で、個々の医者が頑張っている姿しか見えず、医療者の集団が見えてこないからだ。日本医師会も学会も勤務医の声を代弁していない。誰の声を聞けばいいのか。集団としてのまとまりのなさに、ある種情けなさを感じる。日雇い派遣(の業界では、)制度を見直させている核となる人間の数は1000人いないかもしれないが、声を上げて政治を動かしている。26万いる医師たちは何をしてきたのかと思わざるを得ない。医療が悪くなっていることを伝えてこなかったわたしたちは『マスゴミ』と呼ばれても仕方がないと責任を痛感する。では医療者は何をしてきたか。現場で毎日が厳しくなり、医者が足りなくなっていると、医療界全体として発言してきたのか。医療を今後、どんなものにしてほしいか、医療界が知恵を集めて提言してきたことがあったか。
 4月12日の超党派議連のシンポジウムで、ある医師が『何をしてきたと言われたら、医者は医療をしていた』と言った。『うまいことを言う』と思ったが、一種の逃げ口上だ。マスコミがそう言われたら、『1日24時間、番組に穴を開けないために必死だった』と答えるのと一緒。しかし、それでは責任を果たせない。
 今がチャンス。メディアも変わりつつある。医師のつらく苦しい現場が開かれれば、わたしたちは入る。特に今は視聴者が求めているから発信できる。医療者は総意や知恵を集め、何らかのアクションを起こしてほしい。わたしたちはそれを支えていけると思っている」

「お前が(r」といった突っ込みを別として注目すべきポイントを挙げるとするならば、彼らの言うところの潮目が変わってきている、視聴者の医療問題に対する姿勢が変わってきた、というあたりでしょうか。
そもそも潮目なるものを規定してきた人間は誰かと言う話になりかねないことを敢えて口にしてしまったのを報道関係者の勇気と言うべきか蛮勇と言うべきか微妙なところですが、変化を感じると言えばたとえばネットでの世論などもその最たるものでしょう。
ひと頃であれば2chニュース板などで医療ネタなどが取り上げられると言えば、今どきの毎日ネタよろしく「また医者か!」と批判一色だったものが、今は妙に同情的なコメントばかりが並んでかえって面食らうほどですからね。

もともとネットと言うソース優先社会においてはマスコミ報道は疑ってかかれと言う基本姿勢もあってか、医療報道というものがいかにいい加減なものであるかという事がわりあい早くから知られていたと言う点は幸いであったと思います。
すると今後はさらにテレビ、新聞といった既存メディアに情報を依存するネットリテラシーの低い層に問題点の所在をどうアピールしていくかと言う点は確かに課題の一つではあるわけです。
近ごろでは毎日問題を見るまでもなくネットからマスコミへの働きかけが大きな力を持つものであると認識されはじめていますが、一般社会へのアピールの第一歩として医療業界とネットとの連携ということも今後ますます重視していかなければならないでしょうね。

さて、一般への広報ももちろんですが、実のところ肝心の医療従事者自身の医療問題への認識というものも大きなポイントです。
二年ほど前のことですが、ちょうどネットでも問題になっていた大野病院事件等の問題についてそれとなく若手、中堅医師を中心に聞いて回ったところ、この種の問題をよく知っており深刻な危機感を感じている者が1/3、何も知らないと言う者が1/3、そして何となく聞いてはいるが興味がないという者が1/3といったところでした。
ネット上で大騒ぎしていると言っても現実世界での認識はこの程度のものなのかも知れませんが、全国の病院で起こっている診療科丸ごと消滅という事態を見ても最初のきっかけは常勤医の一人が辞めた、すると残りの常勤医がきつくてやってられないと次々やめたと言う蟻の一穴パターンが多いのも確かです。
知らない、興味がないと言っているうちに自分自身の足許が崩れ去っていくような事態がすぐそこまで迫っているという認識をまず全ての医療従事者が共有しなければならないでしょうね。
その意味でこういうニュースはなかなか興味深いものがあります。

大野病院事件、医学生も敏感 東北・意識調査

 福島県立大野病院で2004年、帝王切開中の妊婦が失血死し、産婦人科医が業務上過失致死罪などに問われた事件の裁判に絡み、東北の医学生の多くは、医療事故で刑事責任などを問われることが産婦人科などの医師不足に影響すると感じていることが、河北新報社が実施した医学生の意識調査で分かった。進路として産婦人科を敬遠する理由も訴訟リスクなどが挙げられ、事件が産科医療に暗い影を落としている実態が浮き彫りになった。

 調査は7月中旬から下旬にかけて、東北6県の4大学医学部、2医大の1―6年生を対象に聞き取りなどで実施し、49人から回答を得た。回答者の性別は男性29人、女性20人だった。

 医師の逮捕については、4割近い19人が「医師に刑事責任はない」と答え、「逮捕の判断は妥当」(2人)と「書類送検や在宅起訴にとどめるべきだった」(15人)の合計を上回った。

医療事故が事件や訴訟に発展する可能性が医師不足に及ぼす影響は半数以上の26人が「大いにある」と回答。「少しは」(22人)を合わせると、ほぼ全員が影響を認めた。

医師や病院と患者間のトラブルが増えた原因(一部複数回答)は、23人が「センセーショナルな報道の影響」を挙げ、次いで「患者や家族の権利意識の高まり」(19人)。「説明不足など医師・病院側の対応」は12人だった。

 志望する診療科は産婦人科が7人。産婦人科、小児科など医師不足が深刻な診療科を希望しない理由は「訴訟が多く、劣悪な環境に身を投じる勇気がない」(秋田大3年・男性)「訴訟リスクや過剰労働で仕事をしても報われない」(福島県立医大6年・男性)などの意見が上がった。

産科志望、強い捜査批判 東北の医学生調査

 産婦人科医が刑事責任を問われた福島県立大野病院事件の判決を前に、河北新報社が東北の医学生を対象に実施した意識調査では、産婦人科医を目指す学生はほかの診療科の志望者に比べ、捜査側への批判が強い傾向が浮かび上がった。将来の産科医療の担い手として事件を切実に受け止め、医師不足に及ぼす影響の見方にも差が表れた。

 回答した49人の医学生のうち、産婦人科志望は7人。医師の逮捕には、うち5人が「医師に刑事責任はない」と答えた。産婦人科以外か未定という42人では3割程度だった。

 理由は「手術中は予測できないことが起こる。すべてを医師の責任とする判断はおかしい」(弘前大6年)「症例は極めて珍しく、医師は1人勤務だったなど、すべての状況を加味して判断すべきではないか」(東北大6年)など。

 「分からない」と回答した秋田大6年の学生も「仮に、事前にリスクをよく説明し、家族の同意が得られていたのであれば、医師だけの過失を問うのはひどい」と意見を寄せた。

 「お産は病気ではない」と言われるが、分娩(ぶんべん)時の急変もあり得る産科医療の現場は生と死が隣り合う。

 こうした医療の特性や体制の不備に言及し、捜査に疑問を投げ掛ける意見が目立った。

 訴訟リスクや刑事責任を問われる可能性が産婦人科などの医師不足に与える影響は「大いにある」が1人で、「少しはある」が5人。ほかの診療科を志望する学生は「大いにある」が25人と6割を占めた。

時代が変わったなと感じたのが、グラフを見ていただけると判るかと思いますが、実に全体の7割以上が大野病院事件に対して検察に批判的な意見を述べているところですね。

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具体的なコメントの内容を見てみても自分なりにきちんと事件に対して情報を集め、マスコミの報道を鵜呑みにするだけではない自分の考えを持っている学生が多いなと安心します。
ネットでのリアルタイムでの情報収集と言うものが一般化しておらずクチコミやマスメディアに頼るしかなかった一昔前であれば、おそらく「説明不足など医師・病院側の対応」を問題視する声は1/4程度にとどまらなかっただろうし、「症例は極めて珍しく、医師は1人勤務だったなど、すべての状況を加味して判断すべきではないか」なんて指摘はまず出てこなかったんじゃないでしょうか。
「農家こうめ」さんが医療崩壊と言う現象におけるネット発達の重要性を指摘されていましたが、巷間ネット有害論を唱えるならこういうポジティブな面でのネットの影響もまた正しく評価していかなければなりません。

日々の業務に追われて新聞もろくに見ないというレベルになると医療問題を云々する以前の話ですが、今も年季の入った医師には「医師は目の前の患者を治すことだけに集中していればいい」とばかりに医療以外の世界から背を向けたがる風潮がなきにしもあらずと感じます。
そう言えば当時の日本における最エリート層を多数含んでいたはずの旧海軍があの激動の時代に政治問題には敢えて関わろうとしなかったと聞きますが、何やらどことなく共通するものを感じないでもありませんが…
まあそれはおくとしても、ベテラン組に比べれば若い研修医や学生は受験戦争で鍛えられた?持ち前の旺盛な知識欲を発揮してどんどん新しいものを取り込んでしまう頭の柔軟性を失っていませんから、労力対効果の面でも彼らへの啓蒙活動と言うものが何よりも重要になってくるわけです。

幸い上でも述べたように近ごろではネットが発達していますから、学生や若手医師の教育も随分と楽になりました。
昔なら差し向かいで酒でも飲みながら「俺も苦労した経験があってなあ」なんて話をしていたものが、近ごろではあちらのサイト、こちらの掲示板と幾つか案内して「患者さんはお前らをこういう目で見ているんだぞ」「医療訴訟と言うものはこういうところを突っ込まれてるんだぞ」と示してやれば済むようになった。
飲食店などでも大手のチェーン店ではサービスマニュアルなどが徹底されて個人毎のサービスのブレを防ぎ質を保つことに効果があるのと同じことで、症例検討や学会で医療自体の水準を保証していくことと同じように顧客対応もレベルアップさせていくことが今のところ最も手っ取り早い医療訴訟対策と言えるんじゃないでしょうか。

出来ることなら大野病院事件の結末が後進たちにとっての「忌むべき暗黒史」とならぬよう祈るのみですが…

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