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2008年7月25日 (金)

医療崩壊の嘘!? その二

前回の「医療崩壊の嘘!? その一」に続き、医療崩壊の話題を。
報道によれば、ことに地方の医師不足が深刻なのだそうです。
ここで典型的な記事を一つ見てみましょう。

新人医師の研修先は従来、大学病院に集中していた。新制度では、研修医が研修先を希望できるようになり、症例数が多く研修内容や待遇などが充実した大都市の民間病院などに集中。大学病院や関連病院が人手不足となり、地方の病院に派遣していた医師を引き揚げるようになった。

記事によれば都市部に医師が集中し地方で医師不足に陥ったかのような印象を与える記述ですが、それでは事実はどうか?
今現在でもっとも崩壊が進んでいると言われる産科医に関してみてみましょう。
産科学会が「全国周産期医療データベースに関する実態調査」を公表していますが、「新小児科医のつぶやき」を運営されている高名なYosyan氏がこれを簡潔にまとめてくださっています。

数字で見る産科危機

特に「出産数/医師」の項目を注目していただければ各県の医師の充足ぶりがイメージしやすいのではないかと思いますが、これも同氏のまとめで医師一人辺りの出産件数の多い、すなわち産科医を酷使している県のランキングをみてみますとこうなります。

厚生官僚の超強力電波

なんと!いわゆる三大都市圏とその近傍県こそが軒並み産科医不足を来しているという意外な実態が明らかではありませんか。

「若年者の多い都市部の方が出産数が多いからでは?」という疑問もあるかと思いますが、これも出生率で見てみれば一目瞭然です。

都道府県の合計特殊出生率

出生率上位を占めるのは沖縄、島根、福井、福島、鹿児島といった三大都市圏とは遠い県ばかりで、首都圏や関西圏ではむしろ顕著な落ち込みを示しているのですね。
すなわち都市部での産科医の激務は決して見かけだけのものなどではなく、明らかな事実なのです。
実のところこうした傾向は産科医にとどまるものではなく、現場の医師にとって都市部ほど激務の職場が多く、田舎にいくほど仕事は楽という傾向があることは常識といっていいことです。

地方の医師不足といったところで都市部の住民にしてみれば「冗談じゃない!ここらの病院の外来に並んでいる行列を見てみろ!」という話になるわけです。
需要と供給の関係で言うならば、地方ではなく都市部でこそ医師は不足していると言っていいでしょう。

それでは何故「地方の医師不足」などと言われるようになったのか?この原因として主に二つの問題があります。
その一つは「医師の集約化」という問題です。
田舎は都会に比べて人口が少ない、当然病院も都市部より小規模なものが多くなり、一病院あたりの常勤医の数は少ないのです。
病院と名のつくところは必ず当直医をおかなければなりませんが、一部を非常勤医でまかなうとしても基本的には日勤を終えた常勤医がこれにあたります。
単純に考えてみれば判ることですが、医師数100人の大病院と医師数5人の小病院では後者の方が当直につく回数は(20倍とは言わないまでも)ずっと多くなる理屈なのです。
すなわち都市部の病院では医師の仕事量が多く業務の密度が高い、結果として時間外勤務も多い。
一方で地方の病院では日常の業務自体はそれほど多忙ではないにせよ、交代勤務も取りづらく拘束時間が長いということです。
どちらがつらいかは医師個人の受け止め方も関係してくるところですが、解決方法は誰でも思いつくことで「医師を一カ所に集める=集約化」ということになるでしょう。
ところが誰しも問題と解決法を把握していながら、これが実際にうまくいっていることがほとんどないのが実情なのですね。

近年で最大の医師集約化のチャンスだったのが例の「平成の大合併」でした。
それまで市町村ごとに所有していた自治体立病院を、自治体の統合に伴って合併させてはどうかという議論が各所で起こったのですが、これが全くと言っていいほどうまくいっていません。

「近所の病院が無くなるのは困る」と言う住民のエゴ?
「うちの病院を潰して隣町の病院を残したのでは次の選挙があぶない」と言う自治体トップの思惑?
それとも「ポストが減るのは困る」という病院幹部の意志?

むろんそうしたものもそれぞれに大きく関係しているわけですが、そもそも地方自治体病院とはいったい何なのか?ということについて考えていかなければ報道されることのない実態は見えてきません。
その点についてはもう一つの問題、すなわち「公立病院特有の問題」と絡めて次回「医療崩壊の嘘!? その三」へ続きます。

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コメント

TBありがとうございます。

医師の数の問題は様々な見方があるのですが、要求される医療需要に対して不足しているというのが大前提かとまず考えています。

それと都市部と地方の不足の質の問題は御指摘の通りで、都市部では人口あたりの医師が不足し、地方では面積あたりの医師が不足しています。

もっとも某首都圏知事のように、人口あたりの医師不足を面積あたりに置き換えて「足りている」と強弁するところもありますから、問題は一筋縄では行きません。

まだまだ分析は続くようですが、楽しみにしています。

投稿: Yosyan | 2008年7月28日 (月) 10時00分

Yosyanさん、はじめまして。
いつも参考になる記事でお世話になっています。

最近は医療系blogもあちこちに立派なものが増えてきまして良いことなのですが、ちょっと優等生発言が多いかなという気もしていたところなのです。
もともと「美味しいものを食べながら愚痴る」というお気楽な研究会ですので、あまり他所様が取り上げないような「ぶっちゃけた話」でもやっちゃおうかなと思っている次第です。

今後ともよろしくお願い申し上げます。

投稿: 管理人nobu | 2008年7月28日 (月) 13時38分

医療情報は生命情報といえますよね。とても重要なものだと思う。日本の医療データベース化は進んでいるのは必要である。

投稿: 医療データベース | 2011年12月 8日 (木) 07時37分

医療データベースは、可能性のある病気を残らずリストアップしてくれるため、見逃しなどのミスが激減できます。

投稿: 医療データベース | 2011年12月19日 (月) 20時29分

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