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2008年7月27日 (日)

医療崩壊の嘘!? その三

さて、今回は前回の「医療崩壊の嘘!? その二」の続きで医療崩壊の話題を。

話は少し前後しますが、そもそも医師がどうやって病院に就職しているかを考えてみましょう。
部外者の方には実態が判りにくいかも知れませんので少しばかり説明しますと、主なルートは大きくこんな感じに分けられると思います。

1.「大学医局からの派遣」
いわゆる医局人事と言うもので、いってみれば医局=人材派遣会社という感じでしょうか。
マスコミなどの喧伝するところの「白い巨塔」のイメージとは全く異なり、今どき医局人事で行きたくもない病院に派遣されそうになろうものなら「それじゃ医局辞めますから」のひと言で終わりです。
極端な売り手市場の派遣会社と言いますか、よほど世間知らずの医者が騙されてでもいない限り主導権は圧倒的に派遣される医者側にあるということが実は後述する医療崩壊の一因でもあるのです。

2.「公募」
一般企業の採用にいちばん近い形態と言えるでしょうか。
倍率何倍という狭き門をくぐり抜けなければならない人気病院もあれば、定員だけは設定してあるものの応募ゼロという寂しい病院も少なくありません。
新卒の研修医やその上のレジデントといった若手相手と思いがちですが、近ごろではどこの病院でも年中医師募集中という状態です。
中には全科医師募集中という素敵な病院もありますが、当然のように空席の多い病院ほど訳あり物件率高しという相関関係が成立しています(苦笑)。

3.「ヘッドハンティング」
これには主に二つのパターンがあり、やる気のある病院が優秀な医師を引き抜くというのが一つ。
そしてもう一つは2.の公募で誰からも相手にされない(半ば終わっている)病院が地縁血縁泣き落としなどで医者を釣ってくると言うもの。
一般的に給与は割増しになりやすいのですが、特に後者の場合就労後の契約履行状況がしばしば問題になり「せっかく捕まえた医者が逃げた」などと地方紙の片隅を飾っているのをよく見るところです。

4.「医者自身の売り込み」
この医師不足時代にどれくらいあるのか?と思われるかも知れませんが、意外なことに結構あるのです。
近ごろでは急性期診療に疲れたまともなドクターが療養型に移ってくるというような場合もあって、一概に売り込みドクター=行き場のない無能者という訳ではありません。
ただし本物のトンデモな医者が縁故等を頼りに無理矢理乗り込んでくると、現場の志気が急速に悪化してしまう場合も少なくありません。

マスコミの説に従えば今まで1.「大学医局からの派遣」が主流だったものが新臨床研修制度以来2.「公募」が中心となり医師が集まらない病院も出てきた、それ故に現場で医師不足が起こっていると言う話ですが、果たしてそうなのでしょうか?
実はこうした医局人事頼りの医師確保から公募やヘッドハンティングといった病院独自の人材募集への移行は、研修制度の変更されるはるか以前からとっくに起こっていたことなのです。

数ある診療科のうちで内科、外科、小児科そして産婦人科は、それぞれ全身を診ると言う意味で「メジャー(診療科)」と呼ばれています。
これに対して眼科や耳鼻科などの特定臓器を専門にする診療科を「マイナー(診療科)」と呼ぶわけですが、実は医学部卒業生のうちでメジャー診療科に進む比率が年々低下の一途を辿っているのですね。

一昔前なら同級生100人がいればまず内科に50人、外科に20人、マイナー各科にはせいぜい1人か2人ずつといった状況が当たり前でした。
これが前世紀末頃にはメジャー各科合計しても半数程度となり、科によってはマイナー科でもメジャー科以上の人数を集められるものが出てきました。
実際とある地方大学の内科講座の例で言えば、例えば昔は学外出身者も含めて年30~40人の入局者が当たり前だったのです。
それが10年ほど前には20人程度にまで減少し、近年では10人以下と言う状態です。
これは内科に限った話ではなく、かつてはメジャーと呼ばれた外科系講座など本当に入局者が絶えつつある有様で、まさに外科医は絶滅危惧種と言っても過言ではありません。

救急や当直等で第一戦で働く医師と言う視点で見ればマイナー科よりメジャー科医師の頭数こそが最重要であることは誰にでも判ると思いますが、その直接人の命を扱うメジャー科の医師全体の供給がこうして年を追う毎に激減しているのです。
この結果当然ながら久しく前から各地の関連病院への派遣打ち切り、減員が続いていたのですが、単にそれらが報道されないが故に知られていなかったと言うだけに過ぎないのです。
この結果何が起こったのかと言えば、一部の病院では他大学へ医師派遣を依頼するようになり関連病院の系列再編成が進みました。
しかし当然ながらメジャー科医師の減勢は全国的な問題であるわけで、多くのまともな病院では既に10年、20年といった以前から公募やヘッドハンティングと言った医局派遣以外の医師確保策へと軸足を移しつつあったわけです。
ところが何故かそうした地道な自助努力をせず「俺のところは田舎だから人が来ないんだ!だから医局や政府が医師を手配して当然だ!」と叫ぶばかりの病院もあるのですね。

そもそも自前で医師を集めるとなればいかに魅力的な条件を提示するかと言うこと、そしてなにより病院側の熱意が問題になってきます。
亀田病院のように片田舎でも全国から医者が集まる病院もあれば、首都圏直下であっても医師不足から診療体制縮小、廃院を余儀なくされる病院もあるわけです。
医師が逃げ出す病院もあれば医師が集まる病院もあるのは確かでしょう、しかしそれは必ずしも地理的要因によるものではないのです。
どんな病院に医師が集まるかはまた分析してみれば長くなる話なのですが、少なくとも言えることは今の時代に「医師を大切にしない病院に医師は集まらない」ということです。
そこでようやく前回話に出した二番目の問題になってくるわけですが、要は地方の医療崩壊などと言っている現象は実はずっと以前から医局人事以外に自ら医師集めという努力を怠ってきた公立病院の問題であるという側面が大きいと言うことなのです。

身を以て経験した医師であれば感覚的に判っていることですが、ここで公立病院における医師という存在がどういうものであるかが誰にでもよく判る某所での書き込みを紹介してみます。

341 :卵の名無しさん :2006/08/10(木) 09:14:48 ID:SBJT/p9U0
最近話題の兵庫県中部の公立病院
院長が、「最近の若い医者には過労死するくらいの覚悟でやるやつは
おらんのか!」と○○○発言
偶然かもしれんが、同じ兵庫県中部の別の公立病院でも総務部長が
「医者は適当に過労で死んでくれる方が好都合」とまたまた○○○発言
この地域から医者は総引き上げするべきだな

240 名前:卵の名無しさん :2006/08/17(木) 23:49:58 ID:FvpoMdKy0
前、話に出ていた兵庫県中部の県立病院。今日、話が伝わってきたけどヤバそうだね。
前線の医師が減って一人当たりの業務量が増えても、全然仕事も出来ない年寄り医者
連中は「おまえら若いもんがもっともっと働けばすむことだ」と無視するばかりだそうだ。
院長や総務部長が「医者は過労死するのがいい」って言ったのはここの病院のことじゃ
ないの?
神戸大学もこんな病院だけは人送っちゃだめだよ。殺されるよ。

ね?なんとなく雰囲気が判りますでしょう?(苦笑)
あるいは地方の某基幹公立病院に勤務していたあるドクターの経験談を披露しましょう。

多くの公立病院では常勤医の定数と言うものが決まっているのですが、その病院でも常勤医の数は各科二人と決まっていました。
呼吸器科や消化器科、外科などはマイナー科と比べると大所帯ですから、当然常勤医になれない医師が大勢いるわけです。
10年選手の中堅医師がレジデントと称して、月給20万かそこらのボーナス無しという日雇い労働(本当に!)をしているわけです。
せいぜい年休2~3日で週平均100~120時間程度は働いているですが、帳簿上は何故か週3日の半日勤務ということになっていたりします(笑)。

多くの公立病院の事務の例に漏れずこの病院の事務も全くの無能で、毎日煙草を吸い吸い新聞を眺めながらどうやって5時まで時間を潰そうかと考えているような連中ばかり。
その事務から「今月の超勤簿が出ていないから至急提出するように」と連絡が来たと言うことで、ドクターは忙しい仕事の合間を縫って事務室まで足を運びました。
時はちょうどお昼時、週刊誌を片手に弁当を食べていた事務員の一人が言うことには「担当者が休憩中だからまた後で出直せ」と(爆)。
さすがに切れかけたドクターですが(主観的に)にっこりと笑いつつ「それじゃこの書類をお渡しくださいね」と机に叩きつけて退散したとか。

この話に後日談があって、件の事務からドクターに連絡がありました。
曰く、「先生困りますねぇ、超勤は月20時間までしかつけないって決まりでしょ?”正しく”直しておきますから今度からはちゃんとしてくださいね」だそうで(爆)。
このドクターがさっさと他の病院に移ったことは言うまでもありません。

公立病院における力関係が端的に判る資料というものが実は平均給与の比較です。
ちなみに全国の病院において公立病院の9割、私立も半分が赤字であるとされています。
これはこれで異常な事態なのですが詳細は後日に回すとして、おおむね健全な病院で人件費率は4割程度、5割を越えてくると黒字は困難と言われています。
ところがほとんどが赤字という異常な経営状況にある公立病院では人件費率が6割超という場合も珍しくないのですね。
では誰がそんなに金を取っているのか?世に言う強欲な医者がボっているのかと言う話になるわけですが、実態を見てみれば面白いことが判ってきます。

平成17年病院運営実態分析調査より抜粋

給与(千円)    自治体     その他公的       私的
医師              987            934            1007
看護師           381            335            325
准看護師        409            365            297
事務職員        402            347            296

病院とは医療を行う場ですから、普通に考えれば医療に関してより高い専門性を身につけた者ほど高い給与を支払われるべきではないでしょうか?
実際多くの私立病院ではそうなっているわけですが、何故か公立病院においては専門職たる看護師よりも事務員の給料の方が高いのです!
そして公私間で比較していただければ判りますが、事務員>准看護師>看護師と専門性が低いほど公立病院で給与が高くなっている一方、医師に関しては給料が安く抑えられています。
こうした統計で扱われる平均給与とは常勤医のそれであって、先ほど話に出てきたようなレジデント等の非常勤医はまた別であるということにも留意ください。
さらに公務員の十八番たる年功序列を考えてみれば、せいぜい数年で転勤する医師のボーナスや退職金と比較して事務員がどれだけのものをもらっているか想像がつくと言うものです。

さて皆さん、ここで質問です。あなたが一人の労働者の立場になって考えてみていただきたい。
とある業界では久しく前から売り手市場が続いており、あちこちから引く手あまたという状況です。
そこに低待遇であることが分かり切っている職場がある、そこから派遣会社に「さっさと次の鉄砲玉をよこさんか!」と連日催促がある。
あなたが派遣会社に所属しているとして、わざわざそんなところに派遣されたいと思いますか?
それくらいなら自分で好待遇の職場を探すなり、他の派遣会社に乗り換えようと思いませんか?
あるいは派遣会社のスタッフとして見た場合に、わざわざそんなハイリスクの職場に不足している貴重な手駒を送りたいと思いますか?
いや、自らを鍛えるために敢えて俺は険しい道を選ぶ!という勇気ある人も中にはいるでしょうが、決して多数派ではないでしょうね。

医療崩壊と言う現象の大きな一側面は公立病院崩壊であり、さらにその中身はと言えばごく当たり前の労働者の権利主張に過ぎないのです。
では何故そんなどうしようもない公立病院の実態が放置されてきたのかと言った問題とも絡めて、次回「医療崩壊の嘘!? その四」に続く予定です。

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コメント

いつのまにやらブログに。やっとネットがつながりました。家も引越しが8割くらい落ち着きました。
 さてさて、医療崩壊で大学の帰局者少ないですが、残っている人は結局、大学でないと逆に駄目な人もいるようです。

 1コ上の上司。ブラッドアクセス入れる間だけ、外責、来たらお願いしますというと「そんなの麻酔科にさせればいーだろっ」

 同人物。HCUに入った急性間質性肺炎の人で管理がバタバタしていたのでこれまた外責頼んだら、「HCUに入ったら救急医がみるから暇だろ?外責しろよっ」

 …。
 慢性期病棟で処置も自分でしなくて、急変時も自分でしなくて一体、毎日何している人なんでしょ。

 とんでもネタは茄子だけかと思いきや結構いろいろ石にもありますよ。

投稿: hi-bo | 2008年7月28日 (月) 00時01分

hi-boさんお久しぶりです。
また飯でも食いに行きましょう(笑)。

一面で仰るとおりの現実もあります。
某医局では某分院が乳母捨て山扱いされていたという歴史的経緯もあり(r
その昔の医局長は「どんなクズ医者でも何かしら使えるところはある。それをうまく使いこなすのが医局長の腕」なんて言ってましたが。
実際のところ医師免許と医籍登録番号を持ちdo処方が出来る程度の知能があれば何とかなるというポジションもあるわけです。
逆に言えばそんな仕事をまともな職場での使用に耐える医者にやらせるのはリソースの無駄遣いと言う見方もあるわけで。
理想的には医師の関与すべき仕事全部にまともな医者がつけば良いのかも知れませんが、現実的にそれは無理でしょう。
と言うと結局医師不足が悪いのかと言う話になるわけですが、個人的にはむしろどこまでが医師の仕事かという業務分担の問題の方が大きいと言うイメージを持っています。

ま、このネタに関してはいずれ改めて取り上げる予定ですので、今後ともよしなに…

投稿: 管理人nobu | 2008年7月28日 (月) 13時30分

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